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「この子猫はどうしたのだ?迷子か?」 エマに会いました。 すっごく綺麗な人だ。 肌なんて真っ白で、シミ一つ無い。 濃いグリーンの目。 おそろい? 「この子はだ。」 ナノが僕を撫でながら紹介してくれる。 ちなみに今は猫の形だ。裸の初顔合わせなんて、衝撃的過ぎる。 「そうか……ちょっと触らせてくれないか?」 エマは猫が好きみたいだ。さっきからどこかそわそわして、物欲しそうに僕を見てる。 「。」 ナノが目配せして促すので、膝の上から降りて向かいに座っているエマの膝に飛び乗った。 うん。ナノみたいにぴりぴりした刺激はないけど、ふかふかしてて気持ちいい。 座る場所を探すように数回たしたしと足を動かして、くるんと丸くなった。 ……っ気持ちいい! 膝枕に夢見る男の人の気持ちが分かるね! 「賢いな。迷い込んできたのか?」 エマはさっきから僕の肉球をぷにぷにしたり尻尾とか咽喉とかをくすぐったりして遊んでる。 気持ちいいからいいんだけど。 「可愛いだろう?」 「あぁ……養子にしたいくらいだ。」 ……養子? 「そうしようと思っている。」 …………ナノ? 「では私たちの最初の子供になるのだな。、今度来るときは何か持ってきてやろう。」 あぁ、この人たち本物だ。本物のカップルだ。 素で会話してるよ。聞いてるこっちが恥ずかしい。 なんだかこの部屋の空気がピンク色だ。換気をするべきかな。 ちょっと本気で僕が悩んでいるとき、エマがふとつぶやいた。 「そういえばあの子も黒猫だったな。前に話しただろう?獣にも人にもなれる少年だ。」 ぴくりと耳が動いた。 ナノはそれを視界にいれながらも、平常どおりだ。 「……ああ。覚えている。」 「その子供ものように可愛かった。綺麗な黒猫でな……それなのにあやつらっ………!!」 「どうしたのだ?」 「あぁ、最近分かったことなのだがな、n2……その子が逃げ出したときその場にいた研究員二人が殺されているのだ。最初はその子が狂って逃げ出したと思われていたのだが…」 エマは悲しげに目を伏せた。 「その時、そやつらは無理な実験をしていたのだ。落ち着いて聞いてくれ。その場にな、お前の血液の付着した、使用済みの注射器があった。」 ナノも僕も瞠目した。 ナノが思わず僕を見たから慌てて首を振った。 そっか。あの時はまだ薬で意識がはっきりしてなかったから…… 「普通、お前の血液を身体に入れたものはNicol-virusに侵食に耐えられずに死ぬはずなのだ。だがその場にあの子の死体は無かった。それどころかどんなに捜索しても痕跡さえ見つからない。」 そこでエマは言葉を切った。 沈黙してナノを見る。 「……適合者か。」 「そう、つまりn2は今も無事にどこかで生きているということだ。それでな、第二の適合者として呼び名が決まった。Nicol‐Brutal(ブルートゥ)だ。」 「生きていて嬉しいような言い方だ。」 「当たり前だ。あんないたいけな子供に薬を使って意思を奪っていたんだぞ。結果の分からない実験もするし。ENEDに連れて来られる前もいい環境とはいえなかったようだしな……あげくNicol‐virusなど入れられたら逃げたくなって当然だ。それに殺されたのはその場にいた二人だけ。n2は正気だったということだ。八つ当たりではない復讐だったのだから。」 僕の頭はまっしろだ。 第二の適合者。 Nocol‐Brutal。 つまり僕はナノに次ぐ、いやもしかしたらそれ以上の価値のある研究素材になってしまったというわけだ。 ナノが『最初の』ニコルなら、僕は『驚異的な』ニコル。 二番目ではなく、『異質』で『残酷』な。 でも、それが本当なら僕は世界で一番ナノに近いところにいる。 それだけなら、あいつらに感謝してもいいかもしれない。 「今もENEDはn2を捜索している。……だが私はこのままあの子が逃げ切ってくれればと思う。」 そのエマの言葉に僕もナノも驚いて、僕はエマの膝から、ナノは椅子から転げ落ちそうになった。 身じろいだ僕の背中を、エマの柔らかい手のひらが宥めるように滑っていく。 「……だがエマは捜さねばならない立場の人間だろう。」 すんでのところで体裁を取り繕ったナノが言う。 「うむ……実はな、今となってはどうしようもない話なのだが、あの子を引き取ろうと思っていたのだ。」 もはや僕は動くことも出来なかった。 猫の姿で良かった。もし人間型だったらもやもやした感じに顔が真っ赤になってただろうから。 「この戦争が終わって、もしかしたらこの研究所が必要でなくなるかもしれない。そのときには、自由になったお前と一緒にその子を引き取ろうと思っていたのだ。もちろん二人は追われる立場になるだろうから、どこか遠くでな。もし追っ手が来ても、お前らがそろえば互いが互いを守れるだろう?まあ、つまりは三人での逃避行を計画していたのさ。」 悪戯っぽくエマが笑う。同時にそれは慈愛の笑みだ。 「好きな男と一緒に可愛い可愛い子供を育てるのはさぞ楽しかろうな。まあ今はが私たちの子供だが。」 猫に涙腺があったら確実に泣いてるな。 せめてもの感情表現に、僕の咽喉をくすぐるエマの指を一生懸命に舐めて顔をすり寄せた。 「ん?どうしたのだ………。」 その時、ずっと沈黙していたナノが口を開いた。 「エマ。もしBrutalを見つけたら、お前はどうする?」 ちょっとナノ。まさか。 「どういう意味だ?」 「そのままだ。お前だけがBrutalを見つけたとしたら。」 「……」 じっと考え込んでいるエマ。僕も耳を限界まで研ぎ澄ませる。 恐らく、次のエマの言葉で何かが、すっごく大切なことが決まるから。 「エマ。」 「……どうもしない。いや、選ばせるな。そのまま一人で逃げ続けるか、それとも先を信じて私と共にお前を待つか。」 「一人で行くと決めたら、そのまま見送るか?」 「まさか。まず麻酔銃で動けなくしてからつれて帰る。お前がその場にいたらお前に捕獲してもらう。」 「…………それは結局一緒に行くということじゃないのか?」 「説得する手間が省けるじゃないか。」 剛毅な笑みを浮かべるエマ。ナノは苦笑して、でも愛しそうに僕たちの姿を眺めている。 「だ。」 「ん?この子の名前だろう?」 びよーんと僕の前足を摘まんで二足立ちにさせられた。 ちなみに僕は緊張と無理な体勢で動けない。 ナノがかぶりを振って言う。 「がBrutalだ。」 「…………………………………………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………………………はぁっっ?!!!!」 す………すっごい悲鳴。鼓膜がびりびりする………。 「えっ?あっちょっと待て!!が?!」 エマは慌てふためいて僕の脇を持って振り回している。 ………ちょっと気持ち悪くなってきた。 「が吐きそうな顔をしている。」 ……分かるんだ。 でも助かった。エマが慌てて手を離してくれた。 僕は床に降りて、エマの顔を見上げた。 「本当にお前がBrutalなのか?」 恐る恐るエマが問いかけてきた。 「……ホントウダヨ、エマ。ネェ、サッキノハナシ、ホンキ?」 僕が猫の姿のまましゃべったことに驚いたみたいだ。でも僕の質問には落ち着いて答えてくれた。 「もちろん本気だ。お前は嫌なのか?」 少し不安そうだ。でもそれが彼女の本気を示しているようで、僕は大きく呼吸をした。 どうやら僕も相当肩に力が入っていたみたいだ。 「イヤダッテイッテモ、ツレテカエッテクレルンデショ?」 目を楽しげに細めて、ちょっと首をかしげて問いかけるとエマの身体がふるふると震え始めた。 「エマ?ドウカシタノ?」 具合でも悪くなったのかと近づいて下から顔を覗き込むと、瞬間心臓が止まるような経験をすることになった。 「っ可愛い可愛い可愛い可愛いっっっっ!!!!!!!」 いきなりぎゅうぎゅうと抱きしめられたのだ。 あぁこりゃさすがにやばいなと遠くなる意識の中で思った。 暴れれば拘束は解けただろうけど、二コルになったと思しき時期から力の調節が難しい。 勢いあまってエマの身体を傷つけたくは無かった。 結局は見かねたナノが助け出してくれた。 「ナノ!!私からを奪う気か!!は私の息子だぞ?!」 「俺はの名付け親だ。」 「私が腹を痛めて産んだのだぞ?!」 「血の繋がりは俺の方が濃いな。」 「ちぃっ!!!くそっ!おい!!私の血も注射しろっ!!」 なんか突っ込みどころが多すぎるけど、すっごく幸せな気分だからいいや。 赤の他人のこの二人は、なんでこんなにも暖かいんだろ。こんなに幸せでいいのかな。 とりあえず人型でエマに挨拶するべきかも。 「エマ、ナノ」 名前を呼んで二人の注意をこちらに向ける。 遺伝子のリライト。手足が音を立てながら伸びてゆく。耳と尻尾を残して体毛が沈んでいく。 ぱちりと開けた目は澄んだ翠。 そのエメラルドの獣の瞳を潤ませて、頬を紅潮させて驚いている二人に飛びついた。 「これからよろしくっ!!」 おまけ: 「ではは私の家につれて帰るぞ。」 「………別に今すぐじゃなくても」 「人間は服を着ないと生活できないのだぞ?それともお前はいつまでもを裸のままでいさせるつもりか?」 「…………猫のままで」 「ほう。お前はに人間の暮らしをさせるつもりはないと。はっ!それでよく名付け親と言えたものだな。」 「ナノ、今日は僕エマの家に行くよ。また明日来るから。ね?(ナノ、女の人に逆らってたら生きていけないんだよ?)」 「……わかった。また明日な。(………しかし)」 「うん!おやすみナノ!(たぶん一生、ナノはエマに逆らえないよ。)」 「、明日はお前の服や部屋に置く家具を買いに行こう。さすがに外は人型では厳しいが、家の中なら気をつければ大丈夫だろう。」 「うん!あっ、一緒に頭から被る布と着物も買ってくれない?あと……刀!」 「どうしてそんなものが?」 「絶対に外に出なきゃいけないときに困るから。前に試したんだけど、ズボンだと穴を開けないと尻尾が曲がりそうで……刀は着物に合わせた人型専用の武器にしようと思って。爪でも十分なんだけど、人間らしくないでしょ?」 「ほう。はえらいな、こんなに小さいのに自分のことをよく分かっている。先を見据えることも出来ているし、どこかのテンパとは大違いだ。さあ!そろそろ帰るぞ。猫を抱いてここから出るのは目立つからな、門の外で落ち合おう。駐車場は外だ。道は分かるな?」 「大丈夫だよっ!じゃあまたあとで!」 「あぁ。気をつけて来いよ。」 扉と窓から颯爽と二人が出て行った後には、いまだテンパ発言に硬直している男がひとり残された。 ++あとがき++ 2006年3月6日、加筆修正しました。 |