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暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い 白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い ――バケモノが!――― ニンゲンじゃない! ドウブツだ ナンデ ドウシテ お母さん? 手を伸ばす 弾かれる こんなモノ わたしの子じゃない 「すばらしい。なんとも研究のし甲斐がある素体だ。」 「ええ。こんなモノ、今まで見たことありません。」 カチャカチャと音がする。 真っ白な天井、白いベッド、白い大人たち。 自分だけがクロイ。 「これの母親は?」 「気が狂って今は施設の中です。」 カチャカチャ。 「父親はどうした?」 「金を渡したら何も言わずに帰りました。まあ、これが自分の息子だとは思いたくありませんからね。」 「まったくな。」 ははっと笑い声。 音が聞こえる。 「遺伝子を組みかえることによる身体変化能力。任意に行えるかは調べんとわからんが……この異常な回復力はどこからくるんだ?」 メスが刺さる。目で見れないから、感覚だけ。 ヒフが四角に切り取られる。 イタくて少し体がはねた。 「あぁもう回復が始まった……しかしこの年までよく生きてられましたね。こんな姿で。今は6歳ですか。」 「相当な虐待は受けていたようだ。まあこの回復能力の前では問題にならんか。」 そう。イタカッタ。暗い部屋。血のニオイ。母さんの泣き声。銀の痛いもの。 「胎内から出てきたときは獣型だったそうです。そして人型、さらに大きな獣型。人型といっても不完全ですが。今の姿のように耳と尾が猫科のものです。」 「この間、別のチームがこれの脳に戦闘プログラムをいれて実戦に投入したらしいぞ。そしたらな、なんと敵の一個中隊をこれだけで殲滅してしまったらしい。」 父さんの怒鳴り声。生臭いニオイ。口にも足の間にも。 「つまり人型でも獣型の力が発揮できると。」 「そのようだ。まあ我々はこれの回復力の解析が仕事だがな。」 戦場。センジョウ。敵。血。血。血。真っ赤だった。僕は黒かったのに赤くなった。 「これの血を相当薄めたものをマウスに投与したところ、一時的に傷の治る速度が速まりました。子供での人体投与実験も成功しています。」 血。真っ赤な血。僕を真っ赤にしてしまうもの。 ダイキライ。 「それ、あれと似てると思わないか?ENEDのNicol-Premierだよ。あいつの血も生物に作用してなかったか?」 「効果は違いますが。あれは運動能力と精神力は高まりますけど、こっちのような回復力は伴いません。」 「じゃあ二つの血を同時に投与するとどうなると思う?」 クスリが切れてきた。感覚が戻ってくる。白い大人はまだ気付かない。 「じゃあこれに直接投与してみますか?これの戦闘能力はnに劣ってはいませんが………。データはニコルの適合範囲内にあります。死ぬことはまずないでしょう。」 はやく動け。早く速くハヤク。 「そうか。では早速……」 視界が戻ってくる。目の端で大人が注射器に何か入れてる。 赤いもの。甘いニオイ。 指がピクリと動いた。 上腕を脱脂綿で拭かれる。注射器の針を上に向けて、ピュッピュッと空気を抜いてる。 「結果が楽しみだな。こういう新たな発見の楽しみがあるから研究はやめられん。」 ハリが僕の中に入ってきた。ゆっくりと誰かの血が僕の中に入ってくる。 いつものいろんな薬と違って、なんだか気持ちいい。 ゆっくりと呼吸をする。 そして、 それは唐突にキタ。 痛いイタイいたいいたいいたい イタイ! 血管を千の針が流れてる。骨を内側から削られる。爪がもがれる、指がもがれる、手足がもがれる。内臓がひっくり返される。神経が引きちぎられる。穴という穴から体液が流れる感触。細胞の一つ一つが作り変えられる。脳髄が焼切れる。 絶叫した。 獣へと変化する。人型に変化する。獣。人。獣。人。 こんなに痛みが続くのは初めてだ。この人たちは僕に何をしたんだろう。 身体が大きく跳ねる。大人たちが慌てて拘束具を僕に巻いてる。 地獄の苦痛に叫び、もがいてる僕を白い大人たちはじっと見てる。見てるだけ。 僕がいったいナニをした? 少しずつ痛みが治まる。ゆっくりまた呼吸をする。 「適合は成功か?」 「脳波正常。血流正常。呼吸、脈拍共に異常なし。これ以上は実際に試すしかありませんね。」 カリカリと書き込んでる。 実際に試す?また戦うの?また血をかぶるの? 思考がクリアになる。身体の自由を奪ってた薬はもう完全に抜けた。 まだ拘束具がついたまま。軽く引っ張ってみる。チギレそうだ。 「では早速試しに行こうか。あぁ、ちゃんと薬を打てよ。」 どこかうきうきした男の声。 「はい。」 透明な液体が入った注射器が近づけられる。 これは僕を僕じゃなくさせる。嫌いだ。 左腕に打とうとする男の腕を右手で掴む。拘束は簡単にとれた。 愕然とした表情で僕を見る。その顔に笑いかけた。その男の最後に見る顔になるから。 左手の拘束もちぎった。その勢いのまま男の首を掴む。ぐっと力を入れたら頚骨が折れる音が聴こえた。戦場ではおなじみの行為。これが一番いい殺し方。血も何も出ないし、相手も痛みを感じない。 「ひっ!ひぃっ……!!」 みっともない声。豚が絞め殺される声みたい。 早く、消さないと。 ベッドから降りて、ペタリペタリとオトナに近づく。 このオトナはダイキライ。いつも僕に嫌なことをする。 父さんとおんなじこと。 この男のモノが僕に入ってくるたびに、何度殺そうと思ったか。卑怯にも薬が効いてるときばかり。 コレは楽には殺さない。 「おじさん……今まで僕のこと、すっごく可愛がってくれたよね?」 にっこりと蕩けるように笑って告げてやれば、そうだろうとばかりにこくこくと頷く。コレは僕を馬鹿だと思ってるから。自分がしてきたことを僕が理解していないと思ってる。 「そっそうだろう!私は君を特別可愛がってやった!き、君も私を好きだろう?!」 これ以上無いくらいに笑えた。そして悲しくなった。 「おじさんがしてたのってアイジョウヒョウゲンだったんだよねぇ。だって僕の父さんもおんなじこと、僕にしてくれたもんねぇ………」 あの行為が愛情でないと知ったのはいつだったか。 幼い頃から父親とのセックスを強要された子供は、それが父の子に対する愛情表現だと思っていた。 しかしその行為にあったのは憎しみと嫌悪と侮蔑。 あの暗い部屋で父親に貫かれるたびに囁かれた憎悪の言葉。 慈しみの言葉をかけられたことは一度もない。 両の掌で、そっと男の頬を包む。 脅えきった、異形に対する嫌悪をいっぱいに湛えた瞳をじっと見つめる。 吐息が交わるほどに顔を近づけた。 「だから、一息に殺してあげるね。」 絶望が男の顔を覆った。もちろん一息に殺すつもりはない。 にっこりと微笑むと、徐々に手に力をこめていった。 「おじさんの頭って硬いねぇ。なかなかつぶせないや。」 脳が圧される苦痛と恐怖に悶えている男に、心底楽しげに言ってやる。 その間も力は加えられていく。 男が手を掴んではずそうとするけれど、ピクリとも動じない。 涎が流れる。鼻水が流れる。涙が流れる。 耳からは血が出てきた。尿が漏れてアンモニア臭がする。便が漏れてる。 目玉が反転する。身体が痙攣してる。目玉が少し飛び出してきた。 まだ生きてる。そろそろいいかな。 「さようなら。」 グジュッと音がして脳漿が耳や眼窩や鼻から飛び出した。 生命活動が停止。心臓が止まって、脳など原形を留めていない。汚い死体だ。 手に灰色の粘液がへばりついて気持ち悪い。 死体を放り出して、オトコの白衣で手を拭った。 さてと。 「行こうかな。」 外に。自由なところに。 生きるすべは子供にはないけれど、子猫としてなら生きていけるから。 誰かに拾ってもらうのもいいかもしれない。 ++あとがき++ 2006年3月6日。加筆修正しました。 |