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男……セイバーと名乗った男は、ひそやかに微笑した。 その笑みは、 機嫌の良い、肉を喰らう美しい獣のように。 涼やかに鳴る一振りの剣のように。 ―――鮮血を思わせる鮮やかさで………。 「得物が剣ってェことは、……貴様、セイバーのサーヴァントか」 「それは早計というものだランサー。剣を嗜む弓兵も魔術を扱う槍兵も、剣を使わぬ剣士もいるぞ」 「あー……そういやあの赤い野郎も剣を使ってやがったが………だがアイツは剣士じゃねぇ。アレは巧いだけだ、こうして目の前にするとよく分かる」 青き槍兵はしなやかに躯を伸ばし、快活な笑みでセイバーを見遣る。まるで十年来の友人に向けるように親しげな笑顔。だが、その目は、血が滴るように真っ赤な獣性にぎらついていて、それを見た俺はごくりと息を呑んでセイバーを見た。 「―――」 「威圧は消せてもその存在感はごまかせねぇ。誓ってもいい、テメェがセイバーだ。……運がいいぜ、初日から、最高のカードとやれるなんてな……!」 ランサーの視線の先に、その狂視を一身に受けている男は、僅かにも圧されていない。泰然として不動。いと高き山のごとき、堂々たるその笑み。 それは、まさしく、誰もが認めるであろう王者の威容であった。 彼が晴れやかに笑うからこそ、笑ってしまったからこそ、どうしようもなく不甲斐なく――――安堵した。 「貴様、いや、貴方は、もしや………―――――星魁皇――?」 それは、英雄たちが憧れる英雄。伝説の中の伝説。神代の時代の、さらに過去の英雄の名。 先駆ける星の王。星の守護、その現象そのものと考えられてきた力。星の危機を幾度と救う尊き王の呼称。 セイバーは、応えなかった。 薄い刃の上を渡るような張り詰めた空気の中。彼は―――艶雅に笑った。 「強いな、ランサー。」 褒めたたえる様は演技ではなく、セイバーは本心から賛嘆した。 そびえ立つ眼前の敵。これはまったく、真実、肯定する、――――強い。 星魁皇は礼讚する。自分と似て非なる、荒ぶる獣のごとき自由な魂を。 セイバーも敵も躊躇はない。一拍、目を伏せ、次の瞬間にはたぎる双赤の瞳が苛烈にたたき付けられた。その触らば斬れんばかりの紅い戦意は、変わらず穏やかな金翠に静かに凪いで受け止められる。 両者の距離は八メートル。互いのスペックからすればどちらにしても無きに等しい。 「その武に敬意を表そうセイバー。貴様は、俺の最高の技で殺してやる―――!」 ランサーがその手の魔槍を一振りすれば、誘われて赤黒い風が吹いた。ズブズブと音を立てながら槍が魔力を咀嚼していく。―――喰らっている。 ゾ ワ リ 人、、英霊、反英霊。力の強弱に関わらず 背筋を氷塊が滑り落ちた。 「っ、セイバー!」 何か、何かが、膨大な死色の渦が、最悪の死が、降りてくる―――! だめだ、あれは、あれを、あの槍を使わせては――― 「―――刺し穿つ(ゲイ) 」 前身を、穂先が地につくほど深く沈める。あの角度ではいくら踏み込みが速くてもせいぜいセイバーの脚にしか届かない。だが―――セイバーが、ランサーの動きを真剣に、慎重に計っている。 それだけで俺は、あの槍は絶死に至る代物なのだと………理解した。 ランサーが哂う。セイバーは構えを解かず。張り詰めた青い痩身は弓のようにきりきりと引き絞られ―― 「 ―――死棘の槍(ボルグ)!」 勝利を確信した咆哮が上がった。 |