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「それでは貴方がしてきたことは?」 「貴方が消えた時、貴方が救ってきた人々はどうなるのだ。衛宮士郎が、英霊エミヤが、殺し、傷つけ、それでも貴方に救われてきた多くの人々を、その幸福を貴方はなかったことにしなさるか。その責任をほっぽりだすか。」 「助けたのだろう!ああ確かに救えなかった人もいたのだろうさ、だが貴方はその理想で可能な限りを助けてきたのだろう?! ――――………彼らを、《衛宮士郎》以外の誰が、助けられると思っている?」 「一を切り捨てて九を救う、その何が悪いのだ。命には貴賎もなければ軽重もない。だが私は命に価値をつけるぞ。それを悪と罵るか、だが貴方が救うために闘うならば私は護るために闘うのだ。見も知らぬ多数と愛する身内を比べられるものか。 あの赤い海で、私たちは始まった。たった一人、生き残り、死火に囲まれ黒い太陽に見守られ聖杯の泥に祝福され、“えみやしろう”は誕生した。そして“この世の全ての悪(アンリ・マユ)”も同時に、全く同時、一分一秒一刹那のズレもなく生まれたのだ。そう、私たちの中に。」 「彼は悪だ。彼自身が悪者であるかどうかは関係ない。世界がそう定めたのだ、彼が悪であると。 では、私は彼を倒さねばならないのか? そうではない。彼が悪を行うのじゃない。彼は世界の敵だ、世界に敵対されたのだ。牢獄とも言うべき英霊の座、この世すべての罪業の檻、ありとあらゆる処刑の形代。……あの中で強情に自我を持ち続ける彼を、私は心の底から認めている。」 「そのような、世界に絶望し自分も他人も全てを憎悪しきった彼さえ、この世に産まれようと、己自身を救おうとしたのだぞ。」 「胸を張れ。貴方は救っている。だれもかれもを救いたいなら、まず手近な自分から救ってやれ。己を褒めろ、敵に誇れ、『私は信念を貫いているのだ』、と。 摩耗したなら鍛え治せ。私はずっとそうしてきたぞ。我らの血潮は鉄(steel)で、心は硝子(fire)で、体は剣(sword)だ。私たちは全ての剣の担い手だ。剣の王が、ただ一振りを御せずして王を名乗れるものか」 「正義の味方か……ならばこう考えてはどうだ?貴方は正義の味方である、というのを前提にすればいい。君は正義の味方、君は正義である者の味方である、なれば君が味方する者は須らく正義であるのだ、とな。 ハハ、そう怖い顔をするな恐ろしい。仕方なかろう、私には君の正義が分からないのだから。何をもって君は正義と悪を断ずるのだ?君の線引きはどの辺りにあるのかね?よもや、君が味方したいからそれは正義だ、などとは言うまいな? ―――クソ甘め。究極のエゴイストめが。」 「貴方は真面目すぎる。優しすぎて、傷つけることを怖れて、相手に自身の情を押し付けることが出来ないのだろうな……。恋でもしてみるといい、情愛を思い出してみろ。人肌の温もりは優しかっただろう?貴方が私の可能性のひとつだと言うのなら、少なくとも本質的には同じだろう。ならば人を愛することは容易いはずだ。座に登ることで多くを忘れてしまっていても、喜びも親しみも愛情も感じたことがあっただろう?」 真剣に見つめる金瞳から目が離せなかった。 ―――衛宮白祐。私であり、私でなき者。どうしようもなく嫌悪するかつての自分と、今の自分と、そのどちらとも違い過ぎる個体。 ……誰か、私を殺してくれ。なぜこのような、冗談だろう、不自然だ、なぜ―――――抱きしめられたいと考えるのだ。惰弱な、こんなに私は弱かったか。 じっと観察する。 赤銅色の髪……同じだ。やや艶が増していて触り心地が良さそうだと思う。 琥珀の瞳……同じだ。だが大きくつぶらに見える。蜜のようで舐めたら甘そうだ。 細い身体………骨格から違うのだろう、明らかに華奢だ。白くて柔らかい印象の身体はこの腕にすっぽり納まるだろう。 ……思考をやめろ。不様な、これでは騎士の名が泣く。ただ、否定できない、したくない感情が、冷たく乾いた身体の底から、沸々と。 「恋なら、今、してしまった。」 後悔だけは、したくない恋だ。 「貴方は餓えすぎて、ふらふらしていて、今にも倒れそうで見てられない。 ――放っておけない、ということだよ。顔色の悪い通行人Aに手を貸すのと変わらない、だから――――――大人しく甘えておいで。」 「……どうした白祐。何かあったか?」 「お、」 「お?」 「お…お…… お兄、ちゃんっ」 「――――(茫然)………ッ!(赤面)」 |