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『Fate/zeroにおけるパロ 〜王たちの宴会に英霊の衛宮白祐が参加していたら〜』 「おお、そうだそうだ、忘れておった!朱毛よ、貴様が聖杯に望むものは何なのだ?」 マスター組と談笑していた私にとうとうライダーが水を向けてきた。 この癖の強すぎる三王どもに関わりたくなくてマスター組みと談笑(といっても一方的に話しかけていただけだが)していたというのに。しかし答えないわけにもいかない。三人が三人とも興味深げにこっちを見ているのだ、無視するほうが恐ろしい。 ライダーはきっとうんざりするほどしつこいだろうしアーチャーは無礼だとか言って射てくるかもしれない。セイバーはそうしつこく追求しないでいてくれるだろうが、その穢れない瞳に興味津々に見詰められると、答えてあげたくなってしまう。……女セイバーは可憐過ぎる。この子のカリスマのスキルは魅了の魔眼に違いない! 「―――ふむ。願い、なぁ。…特に思いつかんな」 そうぽつりと呟けば三者三様になんともいえない目で見られた。 「万能の杯に願いがないだと?朱毛、貴様はサーヴァントとしてこの聖杯戦争に喚ばれたのではないんかい?」 「そうですフェイカー。誤魔化さないでいただきたい、貴方は聖杯に叶えて欲しいことがあるから召喚に応じたのだろう?」 心底不思議げに太い首を傾げるライダーに苦笑を返し、やや真面目にセイバーに向き直った。 「願いといってもね、私は現状に不満がない。あぁ勘違いしないでくれないか。私の生涯がとっても幸せであったというわけではないよ。私とて英霊だ。それなりの苦境を越え、死線を退け、一度たりと敗走はなくとも、友を失っては裏切られた。もとが凡人だからね、貴方たちの中じゃぁ、たぶん死に掛けた回数も一番だと断言できる。ただこの状況がとても楽しくてね」 ふふ、と笑いが夜の闇に染みてゆく。少し上を見上げればつられるように三人も視線を上げて―――あぁ、今夜はとても月が綺麗だな。 「―――月見酒。日本では中秋の月を特に愛でるのだがね。生まれた土地も時代も違う、ふつうは伝説の中でしか触れられない世界の三大王が一堂に会して杯を酌み交わしているんだよ?なんとも素敵で豪華なキャスティングじゃぁないか。ここに居合わせたことは僥倖だ、まさに奇跡を見ている気分だ」 からからと笑う私を、セイバーははぐらかしているように感じたようだ。 向けられる視線が険悪になっている。それとは対照的にライダーはなるほどと合点がいったかのように豪放に笑い、アーチャーはそれともまた違う感じに口を撓らせて杯を干す。 「ほう、ほう!いや感服した。確かにそうだな、美味い酒は楽しく飲まねば!酒に対して失礼というものよのぅ!せっかく我こそ王ぞというヤツらが集まったのだ、楽しまねば損というもの!!」 「フェイカー、雑種の割りにはなかなか粋というものを知っているようだな。この我がせっかく蔵の酒を振る舞っているのだ。いささか野趣だが、このような宴に興じるのも悪くない」 「台所が使えれば肴でも作って振る舞うのだが……まぁ今宵は月を肴に酔うとしようよ。この城にあるものなど黴臭くて使えんだろうし」 「あ、貴方たちは何を言っているのだ!これは戦の布告の場だぞ!酒を楽しむ場ではないっ!」 やんややんやと酒盛りを始めた私たちに怒りの様相のセイバーが怒鳴りつけた。だがその可憐な叫びを掻き消すように、ライダーは大気を震わす轟声で笑い飛ばす。 「ハーッハハハハー!!王とは酒を楽しむものぞ!宴を持ちかけられて断るなぞ出来んわいッ!ほ〜れセイバー!貴様も混ざれ!」 「〜〜〜〜ッ!!」 うむ、これは怒っているというより理解できない事象に対する混乱のようだ。顔を真っ赤にしてセイバーは唸る。彼女の中では敵同士が宴会など理解の外にあるのだろう。真面目だなぁと呆れる反面、どこまでいってもやっぱりセイバーはセイバーなんだなぁと思うと、ほっこりとした感じに嬉しかった。 「こやつは何が気に入らんのだ?我と宴席を共にする栄誉に感謝こそすれ、怒鳴られる謂われはないぞ」 「まぁ、セイバーにしたら宴会とは身内の騎士たちと勝利を祝うものなのだろうから、この状況が理解できないのも仕方がない。―――だがセイバー、少しは身体をほぐさないと、堅いままの剣はとても折れやすいものだよ」 「―――黙れっ!だいたい貴方も貴方だ!願いがないなど、真面目に戦う気があるのか!?」 「いやいや私に矛先を向けないでくれ。そこはほら、無礼講というものだよ。それに私にだって欲くらいあるぞ。マスターは既に死んだが単独行動のスキルがあるからもうしばらくは現界しているつもりだし、ただ私の願いは聖杯に願うものじゃないだけだ。そもそも、その願いとやらは聖杯が現界するための撒き餌に過ぎない」 私たちサーヴァントは釣り上げられた魚なのだ。まあ結局は私たちが聖杯の餌になるのだが。少々意地悪げにそう言えばポカリと口を開けて呆けてしまった。面白い顔をしているなぁ。 「―――え?」 「――――――いや何でもないよセイバー。さて、私の願いだったか………そうだなぁ、世界平和なんてどうだろうか」 ブッフゥッ!とライダーが豪快に酒を吹き出した。幸い彼の前に誰も座っていなかったから良かったものの……アーチャーなどにかかっていたらその瞬間にここは剣戟の響く戦場とかしていただろう。 「汚いぞイスカンダル。上等な神酒がもったいない」 「っがふぅ!うげほっ!―――フェイカーっ!貴様、いま世界平和なんぞとぬかしたか!?」 「―――下らぬものを願いおる。少しは見所があると思ったが所詮は雑種……我の勘違いであったか」 なんだかすごく馬鹿にされている。アーチャーなんて侮蔑を隠そうとしないしイスカンダルは信じられないものを見るような顔だしセイバーはイタイ目で見てくるし。 「……貴方たちが何を考えているかはだいたい分かるが、別に偽善や正義感で言っているわけではないぞ。どこまでも私のためだ。私は私のためにしか行動しない」 「世界平和が自分のため、かぁ?」 「その通りだライダー。私は、私のために私がしたいことを私がする。しなければならない。なぜなら、私も己を王と定めているゆえな」 私は深々と溜息をついた。せっかくの楽しい酒宴が止まってしまったのが少し残念だった。こんな機会はもう二度とないだろう。 私は王だ。玉座も王冠も、軍隊も臣下も、城砦も領土も、支配者が持つべきものは何一つ持っていなくとも、自らの足で立ち、己のみを従えて、自らという唯一無二の領土を治める王。その矜持ゆえの、王。 万物など所有しておらぬ。征服など考えぬ。民を導いたこともない。一辺の領地も一人の臣民もない。だが、私は王なのだ。 ――――――理解されようなどと、欠片も思わぬ。 「忙しいんだよ。私は少し特殊な英霊で、本体はまだ現世で肉を纏ったままだ」 「……ほう?つまり貴様の体はこの世に存在している、ということか?」 「なかなか死なない私に世界が痺れを切らして、無理矢理根源に結び付けられてな。ほんとう、いい迷惑だ」 アーチャーの赤い目がギラと不穏な色を帯びる。つっ込むところはそこなのか、なにやら現世での受肉にひとかたならない関心があるようだ。聖杯に受肉を望むライダーを自らの手で殺そうとするくらいには。 ……………あれ?あれ、それって死亡フラグ?もしかして私も殺されるのか?………いや。いやいやいやいやッ!負ける気はしない、しないけど私たちが戦ったらここら一面、更地になるし! なんせひたすら聖剣魔剣聖槍魔槍、斧、矢、という古今東西の宝具を撃ち出す問答無用の物量攻撃。基本、対軍最終兵器な私たち。有限と無限の埋めがたい差は私に勝利を与えるだろうが、彼には一撃必殺のトンデモ宝具“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”があったりする。なんせ創世の剣であるのだ。 私が投影出来ないということは細かく言えば剣ではないのだが、破壊の意思をもって放たれる力の凄まじさを鑑みれば剣だろうが柱だろうがそこにそう大した問題はない。問題はその概念のスケールがありえないほど強大であるということだ。 しつこく言うが創世の剣なのだ。エア神が用いて最初に世界を天と地に分けたとされる紛いなき神の宝、神秘の武装、神の秘術そのもの。対抗できる概念といえば、別の神話に登場する魔剣“遍く灼す黒き太陽(レーヴァティン)”くらいしか知らない。 だがしかし。 世界を焼き尽くすのもマズければ世界を創り直すのも絶対にマズいのだ。マズすぎる。かつてはそれだけで抑止の守護者が寄越されても仕方のないくらいに、世界に多大な影響を及ぼした無双の神器。それがふたつ同時に放たれるなど何が起こるかわからない。 太陽が二つ出来ても地球が二つになってもそこで人間は生きられない。それが起こり得るくらいに何があるかわからない。 固有結界を使えば現実世界に影響はないけどもきっと正義を志す兄さん(私のアーチャー)に怒られるだろうし。私、兄さんに頭が上がらないし。寧ろ上げさせてもらえないし。普段が理性的な人ってマジギレになるとやばいのです。黒なんです。珍妙な紋様が出て変な黒いリボンが生えてくるんです。あれもしかして、アレってまさかセイバーも、私の肚の泥で………?いやいやいや考えるな私深みに嵌るぞ主に泥の。 そう、そうだよ私もう既に受肉してるしというかそもそも私死んでないし。うん、私死んでないからねってことを前面に押し出してごまかそう! 「……は、肚に、ちょっと住まわせていてな。うむそうとも、概念的には幽体離脱に近い。前提からして死んでいないのだ」 だから殺しても無駄だぞーと聞こえていないだろうが口の中で呟いてみる。よし成功のようだ。ぎちぎちした空気が緩んで赤い眼光も僅かながら物騒な矛を納めた。 それにしても、このギルガメッシュと私のサーヴァントである子ギルが過去と未来における同一であるとは本当に不思議だ。世界のミッシングリンクとはかくも多岐にわたるものであるのか。 まぁ、そうであるからこそ、“私”と“英霊エミヤ”は同一存在でありながら別の人格を持ち、重ならない体を持っていて、生き方も考え方もまったく異なる。ゆえに私たちは互いを書き換えることなく、私が彼の座を上書きすることもなく同じ次元に存在していられるのだが。自分に何よりも厳しい私たちは、別人であることの証明のようにお互いに過保護である。 世界は私に優しいがその他にはとても厳しい。 世界に何かを求めればその代価を渡さなければならない。世界をごまかしたければ法則の隙間に無理矢理割り込まなければならないし、世界の所有戦力である英霊を三体、肚の中も含めれば四体をも現界させているのだ。対価に世界の危機とやらを救うくらいは、家族のためには仕方のないことである。仕事だと思えばいい。子ギルのおかげで金銭的には困っていないことであるし。しかし! 「世界は私に休みをくれないんだ。有休さえないんだ。おかげで家族とゆっくり語らう暇もなく銃弾の飛び交う紛争地域やら腐臭のする死徒の街やら物騒なホモい白騎士がいる真祖の城やら根源に近づく陰気な魔術師の排除やらに換び出されてもうほんとにうんざりなんだ。前触れも何もないから水浴びの最中に連れてかれたこともあるんだ」 「……あー。そりゃぁ、やっぱ、裸かのう?」 くだらないことを聞くなとギンッ!と睨みつければ巨体に似合わずプルプルと首を振った。 「そういう発言が許されるのはセイバーみたいな可愛い天然だけだぞ。ちなみに服はちゃんと着ているっ!貴方たちエーテル体が武装しているのと同じようにな。そういうわけで、世界に争いの火種がなくなれば私の仕事が減る。つまり纏まった時間が出来る。私は隠居した爺のように家族と穏やかに過ごしたいのだ」 続きません。 |