あのあと遮光眼鏡と刀を回収して立ち去ろうとした俺は、助けたお礼に京の町の案内をしてもらっていた。



気にしなくてもいいと言ったのだが、



「いいえっ!!助けていただいたのですから何かしないと私の気がすみません!!」

と必死に言われたのでおとなしく好意を受けることにした。そして今は甘味屋でお互いのことを話しているところだ。



驚くべきことに、今まで女性だと思っていたこの人は男だった。宗次朗さんというらしい。……すっごく聞き覚えって言うか見覚えって言うか………ねぇ?
なんとなくこの先の展開が見えてきた。


でもその人当たりの良さは本物で、喋っていてとても楽しい。


君は色々なところを旅してきたのですよね?その剣術はどこで身に付けたのですか?」


さて、なんと答えるべきか。
この時代に一刀流など存在するのか?でも自己流って言い張るには俺の型は完成しすぎてるし……。


「俺が生まれたところにあった小さな道場ですよ。かなり田舎のほうなので、京まで名が届いているのかどうか…」

「そうなんですかぁ〜。流派はなんというのですか?」

一刀流です。宗次朗さんも剣をしていますよね。どこの流派ですか?」

それまでにこにことしていた宗次郎さんの目が僅かに鋭くなったが、気付かない振りをしてお茶をすすった。ん、おいしい。

「……天然理心流ですよ☆」

推測が確信に変わった。この人は沖田総司さんだ。だが疑問も生じる。あの漫画の沖田総司に似すぎているのだ。

まだここは知らない振りをしておこう。

「えぇと……すみません、田舎者なのでよく知りません。確かあの新撰組の沖田さんの流派だったと思うんですが……」

「そうみたいですねー☆あっ、ほらほらもっとお団子食べてくださいね!助けてもらったお礼なんですから!」

ねっ?とかわいらしい笑顔で言われて、男だと分かっていてもついつい頬が緩んでしまう。


「ほんと、宗次朗さんって綺麗ですよね。」


つい口に出してしまった。慌てて口を手で押さえて視線を宙に彷徨わせる。


男に対して綺麗は失礼だろ俺!!沖田さん怒ってるかな……。


恐る恐る沖田さんを見ると、顔を俯かせて動かない。


「どうかしましたか?」


心配になって机を乗り越えて、沖田さんの顔を覗き込んだ。


「っっうわぁっ!!」


悲鳴を上げて飛び退られた。


椅子ごと後ろに倒れそうになってしまったので、慌てて手を伸ばして腰を抱き寄せる。間近で見た顔は真っ赤になっていた。


「あっありがとうございます。すみませんいきなり……」

「いえ、こちらこそすみません。なんか失礼なこと言っちゃって………男が綺麗とか言われても嬉しくないですよね。」


本当にごめんなさいとがしょんぼりと謝ると、沖田は慌てたように言った。


「違うんです!私は怒ってたんじゃなくてっ……その、つまり君にそんなふうに言ってもらって照れてただけなんです!というか君こそ綺麗の代名詞じゃないですか!」

「へっ??いや俺、今までそんなこと言われたことないですよ?目が綺麗とかは結構言われますけど。」

「目も確かに綺麗ですけど、君は全部が綺麗なんです!」


そう言われて、俺は目をぱちくりさせた。これだけ顔が近くにあれば眼鏡越しでも俺の表情は沖田さんに筒抜けだろう。





俺の全部が綺麗、か。そんなこと初めて言われた。なんだか複雑だ。つい数時間前に俺は人を殺したんだから。それに、俺は母さんを……。


「いいえ、俺はとても汚くて罪深い人間ですよ。どうしようもなく穢れています。原罪という言葉を知っていますか?」



苦笑しながら沖田さんに問うと、案の定知らない様子だ。




「原罪というのはキリスト教………耶蘇(やそ)教の言葉で、生まれながらにして人間が背負っている罪のことです。」



ゆっくりと身体を離す。目は合わせたまま。


「そして人間はみなこれに縛られていて、その罪を償うことも出来ないと説かれています。そして償えないと分かっていても、許されたいと人は足掻く。」



沖田さんは呆然としている。そりゃそうだろう。いきなり知らない宗教の話をされたりしたら。



「――――俺も、その一人です。」













血を流す心を押し隠して、俺は微笑んだ。