しとしとと霧のように小さく細やかな雨がわずかな音を立てて
全てのものを濡らしていく
この世界に降る雨はとても冷たい
黒羽の毛を濡らして空を見上げるは思った
薄汚れた街の片隅でぽつりとひとり
骨の芯まで滲み込むような寒さに
ただ
己の存在意義を問うていた。
スターライト・サンシャイン
ぽたぽたとビルの合間から落ちてくる、吹き込んでくる雨垂れが
遮るようなものさえ無い路地の片隅で、身を横たわらせているの体に優しく時折強く、垂れ落ちては
ゆっくりと眠りの淵に誘う腕のように体温を奪っていく。
少しで雨宿り出来ればと雨除けのある店先で座り込んでも、気味悪そうな目つきでこちらを見る店員に見つかれば
時にバケツで水をかけられ、時に物を投げつけられて追い出されて、結局人気のないこの路地裏に逃げ込む他なく。
その頃にはもう街中を居場所を探して歩き回る体力もなく、か細い体は遠からず訪れる安息の死を待つばかりだった。
おぼつかぬ足取りのままやっとの思いで、ビルから張り出した鉄骨の階段下に横たわってみても
隙間ばかりのそれは霧のように粒の小さな雨を溜め込んで、大きな塊に集約して地に落とすだけで
この雨を越すには到底足りず。
歩き回っていればそれなりの高さに保たれていた体温も、濡れた地面に横たわり、変わらず降り続ける雨に曝されれば
たちどころに温もりを失い、力の入らぬ指先はもう感覚があるのか無いのかさえ分らない。
常に立ち込める生ゴミの悪臭も
忙しなく怒鳴り合う人の声も
轟音を轟かせて通り過ぎていく車の音も
遠く降り続ける雨に遮られ
世界はとても静かだ。
毎日を、昨日を、今日を、明日を生きるのに精一杯だったは産まれて初めて
やがて訪れるであろう安息を前に己の存在意義を考え始める。
水と冷たさだけが支配する世界の中
黒い睫に縁取られた色違いの瞳は、ぼんやりとゴミの溢れかえったアルミ缶を虚ろに見つめながら
顔も思い出せぬ親兄弟を思い出そうとしていた。
めまぐるしく変動する毎日をまるでビデオでも巻き戻すかのように手繰れば、酷くぼんやりとした輪郭の中に
もう顔も思い出せぬ母の姿が浮かんでは消える
生まれてすぐに生き別れてそれっきり。
思い出らしいものさえなく兄弟がどのぐらい居たかさえ思い出せない
それでも少なからず懐かしいと思うのは、生を受けてこの世に産まれ出でるその瞬間まで
心地良い腹の中で匿われていたからだろうか。
乞えば食事を与えてくれる優しい人
近寄れば石を投げて追い払う酷い人
たおやかに頭を撫でてくれる人
笑顔で声をかけてくれる人
物珍しそうにこちらを見る無数の人
この世界は人で溢れかえっていたけれどその顔を思い出せる人はわずかで
そして僕の事を覚えてくれている人もきっとほんの一握りで
誰にも知れず最後の時が訪れる音が聞こえる
僕は・・・・一体
なんの・・ため・・・に・・・・
産ま・・れ・・・て・・・・
きたの・・だ・・・ろ・・・・・・う
の思考はそこで静かに帳を下ろし始めた。
静かに細やかに雨が降る
けぶるように
覆うように
街の片隅でひとつ
静かに消え逝く魂を悼むように
ゆっくりと泥の中に沈むように落ちていく意識の向こうで
大きくひとつ
水を打つ音が響いた。
例えばそれは、まどろむ夢の中で遠くから迫るように聞こえてくる時計の急かす目覚めの音にも似て
眠りのように安息を迎え始めていたは開けるのもやっとの様に、重い瞼を抉じ開けた。
輪郭を捉えるのが難しいのは雨のせいだろうか意識のせいだろうか
雨粒の多くなった白い霧の向こうに見えたのは
小さく水を弾く濃い黄土色のブーツだった。
誰だろう
誰かが自分を見ている
音も景色も薄い膜の向こうにあるように見えているは、それでも誰かが自分を見ている事に気づいた
それは悪意も哀れみも優しさも好奇心も篭らぬ視線
この雨のようにただ静かに、後は朽ちていくだけの役目を負ったこの体をその人は見ていた。
少しだけ距離のある間に流れるのはさらさらと雪の積もる音にも似た雨音と
棘もなく優しさもなく冷たさもない時間
もう少しだけ
待って
行かないで
それは決して命乞いではなく、雨だけが支配していたこの世界の中で
その存在を思い出させるかのように出現したその人に
自らの最後を看取って貰いたいというささやかな願い
食べる事で生き、奪う事で生き、争う事で生きてきた人生の中で、初めて訪れた安息は孤独という使者を伴って
自覚しなかった、あるいはそうしない様にしていた事実は他者の存在を得る事でその濃さを増し
小さな命に最後の慰めを乞わせた。
自らの意識が落ちるまででいい
触れてくれなくていい
声をかけてくれなくていい
助けてくれなくていい
ただ
この瞼が落ちる瞬間まで見ていて欲しい
が初めて生きる糧以外を人に乞うた瞬間だった。
まるでその声が聞こえているかのように、そのブーツの主はただ体を濡らす雨の中、遮る傘も持たずにそこに佇んでいた
母の腕に抱かれて眠りに落ちる赤子のように、今度こそ静かに瞼を閉じようとしたの耳に
死を遠ざけようとするかのように再び水を打つ音が響く。
崩れて舗装もされていないアスファルトを硬質な音が叩いて、ブーツの先がこちらへと向かってくる。
先が地につくたびにわずかに嵩を増した水を弾いては、近づくことで大きさを増して見えるブーツが暗い物陰に入れば
その人が纏う青いコートが伝う雫さえも装飾品に魅せるかのように煌めいていた。
不意に見せた思わぬ行動を、どうしてと問う思考はもはやには残されてはおらず
ただ施される行為を受け入れるばかりで。
温 か い
頬に触れられているのだろうか、じんわりと低い体温が落ちる雨粒と共に伝わって、冷え切った体にそう感じさせる。
「・・・・生きてるのか」
ほぅと漏れた吐息を聞き取れたのか否か、かけられた声に霞む視線を上げればそこには
が初めて見る生き物が身を屈めていた。
雨で濡れる青白い肌は滑らかな陶器のように粒を弾いて、髪から落ちる雫が頬を伝い顎に落ち
その先から地面へと落下して
水分を含んだ髪の毛は見た事も無い色に染まり、自重にも負けぬ強さでわずかに跳ねては艶を増して
それはまるで磨き上げられた金属の様でもあり
極上の素材で紡がれた生糸のようでもあり
こちらを覗き込む瞳は濃い空の色をして、奥に揺らめく淀みさえ宝珠かなにかのように煌めいた
か み さ ま
産まれて初めて見たその美しい人にはただそう思った
人伝に聞いた神様とはきっとこんな人を言うのだと。
髪も、肌も、瞳も、今まで見たどんな人よりも美しく清らかで
死に逝く自分の元に神様が舞い降りて迎えに来てくれたのだ
そう思うだけではただ誰よりも満たされる気がした。
この人に看取られるのなら
自身の生も無駄ではなかったかもしれない
頬に触れる手が生きている事を確かめるように腹部へと降りれば、微かに上下するそこはまだ
命が途絶えていない事を温もりに伝え、小さな衣擦れの音が雨を凌ぐには適さぬ階段の下で立つと
冷たい水の張った地べたに横たわっていた小柄な体が温かい感触に包まれ、ふわりと宙に浮いく。
未だ手足は鉛のように重く感覚も無い体が、生へと縛り付けるように薄れゆく意識を捕らえながらも
軽々と冷たい感触の中から動いたその浮遊感に、が視線を彷徨わせると
青い衣を纏っていた肩が黒いベストへと変わり、そこを雨がしとしとと打ち濡らしている光景と
鼻先を掠める匂いに、己が身があの青いコートに包まれているのだと辛うじて認識出来る。
自分の薄汚れた体を包むためにあの上質そうな着衣を汚しているのかと思えば、いけないと口にしようと開いた唇は
ただわずかに呼吸を吐いただけで、言葉も音にはならず身じろぐ事さえ出来ずに
衰弱しきった手足はほんのりと香る匂いと温かさに包まれて、この腕の中こそが
天国か楽園ではないのかと錯覚し始めていた。
味わった事の無い絶対的な安心感に包まれて
静かに世界を覆う雨音はまるで子守唄のように
布一枚隔てた世界を濡らし
銀糸をしっとりと艶めかせる人が歩を進めて
導かれる眠りにつくはそっと穏やかな表情で瞼を閉じた。
長い雨が終わり晴れと雨雲の空が繰り返し訪れて
少しずつ窓を打つ音が遠ざかればもうすぐ吐く息も白くなる季節。
心地良く日の当たる大きな窓辺に向かって据えられた濃い深緑のソファの上
青いリボンが結ばれた所で、日の光を反射して光る鈴が涼やかな音を立て揺れれば
開いた戸の向こうに聞こえた足音に翡翠と石榴の色を隠す、黒い睫が縁取る瞼がゆっくりと開かれる
「、行くぞ」
急くでもなく至極穏やかな声でかけられたその声は、初めて聞いた時と変わらず
天上の歌声にも似て優しく甘く美しく
応えるように濡れ羽のような黒い毛並みを波打たせて体が揺れると、音もなくソファから飛び降り
産まれて初めて持った主の下へ向かう。
午後の日差しを受けて主の腕の如き心地良さを保つ部屋から
軽やかに響いた鳴き声とゆっくり波打つ黒い尾尻が消えれば
ぱたりと小さく戸の閉まる音を残して
部屋は静寂で満たされた。
言い訳
人間だと思わせておいて野良猫というオチ!!(爆
いやいやいや、待ってくださいお客さんそう怒らないで石を投げないで。
半獣という手もありますというかそうです(え!?(笑
というか相変わらず主要人物の登場シーンが少ないという罠(蹴
とりあえず配布夢なのでお持ち帰りご自由にどうぞ。
・・・・・こんな夢持ち帰る人いるんだろうか・・。
++ゆきうさぎ++
10000HITのフリー夢を勝手に拝借してきました。ど、動物ネタ大好き……しかも黒猫!!オッドアイ!!ツボひっとしまくりです。
アァ……バージルが優しい夢に弱いんです、私。続き出たら嬉しいなぁ…。
持って帰るの禁止ですよ!