神羅仕官学校内にある薄暗い通路。



普段は人通りのほとんどないそこには、今二つの人影があった。



180cmを優に超えるだろう青年と対峙しているのは、それよりも頭ひとつ分ほど背の低い青年。

1メートルほどの間隔を空けてたたずむ2人の間には、ぴんと張り詰めた空気が漂っている。





どちらも神羅の士官学校の制服を身に纏っている。違うところは、学年を表す徽章の色だけ。











大柄な青年は、相対している青年をぎらぎらと見詰めている。

かれこれ五分、そんな焦げるような目を向けられて、見詰められている青年はひそかに溜息をついた。



最近、こんな呼び出しが多い。自分がいったい何をしたというのか。



思わず目線が遠くに行ってしまう。


近頃はおとなしく過ごしていたんだ。
そりゃちょっとは夜中に出歩いたり、売られた喧嘩は買ったりしたけど。


……サングラスをしていて良かった。この薄暗い通路も、うんざりした表情を隠すのには都合がいい。







興奮しているのか、相手の顔は赤く、鼻息も荒い。これもいつものことだ。





再び溜息をつく。

今度は相手にも聞こえるように。自分の意図が伝わるように。



「………先輩、いい加減に用件を言ってもらえませんか。」

俺、このあと用事があるんですけど、と言うと、ようやくアクションを見せ始めた。


ぎゅっと硬く握り締められ、身体の横に張り付いていた拳をそろそろと上げていく。



…………!」



相手の胸の前まで上げた拳を、手の平が上になるように平返す。

男くさい顔が緊張に歪み、ますます赤くなった顔からは汗が滲んできている。

逞しい咽仏が上下して、胸に突きつけられた手がゆっくりと開いていく。

その中にあったものは――――――――――――































「頼むっ!俺と付き合ってくれっ!!!」


差し出されたのはひとつの指輪。シルバーで出来たソレは、雑誌にも載っている有名なブランドのものだ。


その指輪が乗せられている手の指には、明らかにペアだろうと思われる、一回り大きな指輪がはめられている。



いまだ絶叫の反響する廊下で、それと男の顔を交互に見て、は大きく三度目の溜息をついた。







ほんとになんだというんだ、最近のこの妙な呼び出しは。







































































「ぷっ……くくっ…!」

「いい加減に笑い止めよ。というか今の話のどこが面白いんだ?」




寮の談話室。
コーヒーを片手に呼び出しの話をレノにしたところ、盛大に噴出された。

おかげでの機嫌は最悪だ。


「だ、だってなぁ。おまえ、ほんっとーに分かってないのか?、と。」


笑いの余韻を残しながら、細められた水色の瞳に見詰められて、はうーんと考え込む。






――――レノがこう言ってるってことは、つまり俺は何かを分かってないってことか?
あの呼び出しは嫌がらせじゃないのか?
で、俺が分かってないってことはそうじゃないってことで。

……………あっ、そうか。





「分かったぞ、レノ。あれは嫌がらせじゃなかったんだな。」

「やっと分かったか、と。」

「あぁ。あれは俺にどこかに付いてきて欲しかったんだな。」





なんだ、悪いことしたかも。とつぶやくの傍らで、レノは既に酸欠寸前だ。

膝をついて呻くレノを心配して、同期のクリスが声をかけてきた。穏やかな性格だけど意外と気が合って、結構な割合で三人でつるんでいる。



「レ、レノ、大丈夫?腹でも壊した?」



心配そうにレノの背中をさするクリスに、盛大に笑われて不機嫌なが話しかける。



「クーリースっ、こいつのことは心配いらねぇよ、ただ笑い死にしそうなだけだ。
まぁこれ以上笑ったら、横隔膜筋の疲労と呼吸困難で死ぬ前に俺が殺してやるけどな。」



冷ややかな恫喝にピタリと笑いの呻きが止む。

それでもぴくぴくと震えているレノをは苛立たしげに睨んだ。


睨まれた本人よりも、そばで見ているクリスのほうがその殺気に怯えている。



「なんだかブッソウだねぇ……。何かあったの?」


焦げ茶の目をくりくりさせて、クリスがに尋ねる。




がレノにしたのとおんなじ説明をして、ついでに自分の見解を述べると、クリスは大きく溜息をついた。



「どうやったらそんな結論にたどり着くのさ………」

「そーだぞ。実はおまえ、バカだろ、と。」

「レノ、ホンキで死にてぇらしいな。」

「まだ死にたくはないんでね…、と。もう俺はしゃべりませんよ、と。」



そろそろホンキでイラついてきたらしいに、レノは早々に諸手を上げた。


本気ではないのだろうが、人並みはずれた美貌のが怒ると平伏したくなるくらいに迫力がある。

これで鞭を持たせれば誰もが道を空けるか、イジメテ欲しくて足先に身体を投げ出すだろう。にサドのケがあるかは知らないが。

ピンヒールと軍帽も装備させれば完璧だ。


脳内で出来上がった女王・のあまりにはまった姿に、面白さを通り越して恐怖を感じる。




……やべぇ、ちょっと打たれたいかも。





「(おーこわ。女王様はお怒りだぞ、と。)」

「なんかまたいらんこと考えただろ。」

「(なっなんで分かるんだ!?)」

「聞こえてんだよボケっ!!」




鳩尾に一発。

今度こそ沈没したレノを放って、がたがたと震えているクリスに目を移した。



「(こ、この場から去りたい……っ!!)」

「で、だ。クリス、答えてくれないか。」

「な、何を……?」



恐る恐る聞き返すクリスに、一言ずつ区切って告げる。言葉こそ頼むものだが、内容は完璧に拒否を拒絶した命令だ。



「俺は、いったい、何を、分かっていないんだ?」



サングラスを外した切れ長の目に見据えられて、その造作の完璧さに息を呑んだ。




アーモンド形の整った目に濡れたように光る珊瑚色の薄い口唇。
すっきりと流れる鼻梁に、黒々と波打ったオリエンタルな黒髪は女性の甘さを思わせるものなのに、甘さのない輪郭と咽の突起がそれを男性だと分からせる。


過ぎる美しさは時に恐怖さえ覚えるものだと、クリスはに会って初めて知ったのだ。
普段はサングラスが緩衝材になっているので、怖いと思うことはないのだが。



「…あのねぇ、は美人なんだよ。」

「口説くつもりなら蜜蜂の館に行け。そこで欲求不満を解消してこい。」

「いや、が男なのは確かなんだけど、そういうんじゃなくてねぇ……」

「というか俺は美人じゃねぇ。美人っていうのはセフィロスみたいなのをいうんだ。」




自信満々にきっぱり言い切るに一種の感動を覚えそうだ。



ふぅ…とため息が漏れた。自意識過剰(ナルシスト)なのも嫌だけど、自覚が足りないのも困りものだ。



がやけに贔屓しているあの少年は確かに芸術品と呼べる外見だけど、横に並べば対のように互いを引き立てあうだろうに。
一緒にいて見劣りどころか、むしろのほうが輝いて見えるのに。






これからに分かってもらわなければならないことを頭で整理する。
まずは………


「今日は何月の何日だい?」

「あーー………二月の、四日?」

「そう。それで、今月にある大きなイベントは?」

「イベント……?」

「おまえも男だろ、と。男なら誰でもドキドキワクワクもしくはビクビクしながらそれでも待ちわびるイベントだぞ、と。」

「―――――――――――――バレンタインデー?」

「そうだよ。」



やっと分かってくれたかと胸をなでおろすクリス。

だがはまだ何か悩んでいるようだった。



「バレンタインデーが近いのは分かったけどさぁ、それとコクハクとどんな関係があるんだよ。」



(そもそもあれは女が男にやるもんだろ。)

すごく不思議だ。だって、俺オトコだし。





首を傾げる俺を見て、(いつの間にか復活していた)レノとクリスは揃って顔を見合わせた。


そのままくるりと廻ってに背を向け、ぼそぼそと囁き合う。



「もしかして、知らねーんじゃねぇか?と。」

「う〜ん………まあ地域に因っては情報が届かない場所もあるからねぇ。」



再びこちらを向く二人。



「あのさ、が育ったところって、どこ?」

「あーー………一応ウータイかな。もっとも結構長い間、旅に出てたんだけど。」




平然と答えるが内心では心臓バクバクだ。

この世界に俺の故郷と呼べる場所はないから。


なにせ、星に引っ張られてこの世界に来て、気付けば魔晄ポットの中だったのだから。


自分の見た目と長年(といっても15年ほど)親しんだ名前がウータイ風だったから、出身をそこにしているだけで。
ボロが出ないようにウータイまで行って、風習やら軽い体術やらを習ったけど。


族長のキサラギ家とも仲良くなったし。あの独特な地風にもそれなりに馴染んでいたように思う。


いまいちウータイの身のこなしが身についていないのも、長年旅をしていたからだということにして。


この先の戦争を知っている自分としては、お世話になった人たちと戦うのはすごく心苦しいけれど。

俺は弟が大事だから。  アレを守るためなら何でも出来る。



「ふ〜ん……、あれだ、そーいえばウータイって確かバレンタインにチョコ渡す習慣はなかったはずだぞ、と。」

(ナイスフォロー、レノっ!!!)



唯一、俺の事情を知ってるレノは、時々こうやって俺を助けてくれる。さすがにバレンタインの風習は知らなかった。


俺が感謝の視線を送ると、クリスの後ろからにやっと笑みを返してきた。ほんとに出来た相棒だよ。



「それじゃ仕方ないねぇ。あのね、ミッドガルではバレンタインに、恋人にチョコをプレゼントする習慣があるんだよ。」



いや、それくらいは知ってるけどさ。



「俺、あちこち回ったけどさ、バレンタインは恋人同士だけじゃなくてお世話になった人とか家族に日ごろの感謝をこめて、何かをプレゼントする日だって認識してたんだけど。」

「ん〜まぁ間違っちゃいないな、と。義理チョコとか配る奴もいるし。」

「ここではバレンタインの直前に男が男に告白する習慣があるのか?」

「いくら俗にまみれたミッドガルでもさすがにそんな習慣はねーよ、と。」

「ウータイは健全でお堅い国だからねぇ、男が男と付き合うなんて考えはないんでしょ。」

「―――――――――――――は?」



なんか今とんでもないこと聞いたぞ。
いやいや、きっと聞き間違いだ。いくら世界が違うからって……



「ミッドガルではな、同姓同士の恋愛が認められてるんだよ、と。」

「いやいや、そんな不毛なことを。」

「法的に同姓婚は認められてるよ?なんでも、女より男の数が多いかららしいけど。」






…………………。

やっべー、カルチャーショックってのを初めて受けてるよ俺。

俺の生まれたところじゃ考えられない…………。

あれ?でも確か欧州とかじゃ、結構同姓でも結婚出来ていたような。



「で、でもさ!子供も出来ないのに結婚する意味ないだろ!?」

「そうそう、子供を欲しがる奴も絶対出てくるだろ?なんでも受精卵に互いの細胞埋め込んで、それを培養させるらしいぜ、と。」

「それも神羅の産業のひとつだよね。科学技術研の人たちがやってるみたいだけど。」




………………………ガスト博士かっ!あのやろう、余計な技術造りやがって!

つーか今、宝条が責任者だろっ!?めちゃめちゃ危ないじゃん!!!

何をいじられるか分かったもんじゃない!というか遺伝子見られたら俺がセラフだってばれちまう!!



万に一つ、男と結婚したとしてもぜってー子供つくらねぇぞ。







決意を固めているに、クリスが困ったように話しかけた。



「それでね、みんな恋人と一緒にバレンタインを過ごしたいんだよ。」



その言葉にそこはかとない不安を覚えた。
コイビトを作るのに手っ取り早いのはまさしく告白だ。

漠然と、嫌な考えが浮かんでくる。出来ることなら否定して欲しい推測だ。
でも、俺の頭脳はそれ以外の答えをはじき出さない。
でもそんなの認められるか。




一縷の望みをかけて、昏い瞳でクリスを見遣る。

どうか否定してくれという願いを込めて。



「…………それで?」



俺の暗い呟きにレノが答えた。


「ククッ、もう分かってんだろ?つまりお前にコクってきた奴らは、お前とコイビトどーしになりたかったんだぞ、と。」



にやにやと笑うレノに、困ったように笑ってこっちを窺がうクリス。



くらりと眩暈が襲う。
あまりのことに視界が白くなった気さえした。もちろんソレは幻覚でしかなかったのだが。



「お、俺はっ!男だーーーーー!!!」



頭を掻き毟る勢いで絶叫するに、相変わらず飄々としたレノとほのぼのとしたクリス。


この2人を相手に和んでいる辺り、意外とクリスも大物かもしれない。



「んなの見りゃ分かるぞ、と。」

「あはは。というかさぁ、ほど男らしい男ってそうそういないよねぇ。」

「うっせぇよ!!あーもうっ、くそがっ!!もっとブンなぐっときゃ良かった!」

「あ?お前、どうやって断ってたんだよ、と。」

「いや、まじめに告白だったらかわいそーだなーと思って丁重に断ったらさ、背を向けて泣き出すんだよ。」

「「…………」」

「そんでなんかこう、父性みたいな母性みたいな、慰めてやりたいなーと思って背中をさすってやったんだけど。」

「「………………………………」」

「なにを勘違いしたのか飛び掛ってきやがってさぁ、最初のころはいきなりでマウントポジション取られてたんだけど、最近は慣れてきたから急所に一発入れて転がしてきた。」



フラレたからって喧嘩売るなよなー、とぶつぶつ言っているに、二人はやけに抑揚に欠けた声をかけた。



「なぁ、それって全員か?と。」

「ん?あ、あぁ、昨日の奴以外はな。昨日のは肩掴んで顔近づけてきたから……」

「…ねぇ、誰に告白されたのか、もう一度教えてくれる?」

「え?なんで「さっさと教えて?」………アイ・サー。」



まるで現役のタークスのように目をぎらつかせたレノと、口元はにっこりと微笑んでいるのに目は絶対零度の冷やかさという器用な表情のクリス。

いくら魔晄を浴びてても、ジェノバの息子でも、セトラの遺伝子を持ってたって、逆らってはいけないものはあるのだと理解したでした。















































+++おまけ?+++





プカァーと白い煙が、タバコの先と男の口唇から吐き出される。




そこは冒頭の通路。

ただし、そこに存在する人間の数は大幅に異なっている。



気絶した男たちを2、3人積み上げて、その上に座っている人影は二つ。




「結構手間取っちゃったねぇ。」

「まぁこの人数相手なら仕方ねぇだろ、と。」




会話しているのは2人だけで、あとには口も聞けないほどボコボコにされた十数人の男たち。
その中で怪我ひとつないクリスとレノは浮いている。


「ねぇ、なんでを連れてこなかったの?がいたらもっと簡単だったのに。」



訝しげなクリスを横目で見て、レノはまた白煙を吐き出す。



「なんだっていーだろ、と。それより、お前って結構えげつないな。お前のやった奴ら、一番痛みを感じるとこばっかやられてるぞ、と。」

「レノのよりマシだよぉ。少なくとも僕は骨を折ったりしてないからね。」

「あーところでどーやってこいつら呼び出したんだ?」



自覚があるのか、わざとらしく話題を変えた。
それを気にする風もなくクリスは答える。



「ただの名前で、もう一度会いたいですって連絡しただけだよ。『恥ずかしいから誰にも言わないで下さいね』って付け加えて。」

「証拠残してねぇよな、と。が面倒なことになるぞ。」

「ダイジョウブだよ、イニシャルしか書いてないから。にはアリバイのためにグレイたちと飲みに行ってもらったし。」

「じゃ、あとはこいつらの口止めだけだな、と。……にしてもお前、上品そうな顔して妙に慣れた感じだな、と。」

「あははっ!トップツーにほめられて光栄だね。」



栗色の髪を掻き揚げながらさわやかな顔で笑うクリス。すごくすっきりした表情だ。

スラムで揉まれた自分ですらちょっと引く。



(こいつ絶対タークス向きだ。敵に回したくねータイプだな、と…。)


タバコを足元にある男の身体でもみ消して懐に入れる。ここに自分がいた証拠を残さないためだ。


気だるげに髪を掻き揚げると立ち上がった。
見上げてくるクリスを見下ろして言う。



「べっつにほめてねーぞ、と。ま、に関して気が合うことも分かったことだし、今度3人で飲み行くか、と。」





その後、薄暗い廊下にパシャッパシャッという音に合わせてフラッシュが瞬いた。



























翌日、見知らぬ下級生に襲われて復讐に息巻く上級生たちのもとに一枚の封書が届けられた。
その中には己の素っ裸の写真とに近づくなという脅しの文句。


その日から、どんなに怪我の理由を尋ねられても彼らは口を閉ざしていたという。



































「なぁ。なんか最近、呼び出しがなくなったんだけど。」

「良かったねぇ。」

「おめでとさん、と。」



















+++あとがき+++


7000HITを自分で勝手に祝して書いた突発ものです。
いやぁ〜みごとにオチがないですね!バレンタイン間近の士官学校の日常を書いてみました。まだ本編にでていないオリキャラのクリス、最初は真っ白なキャラの予定だったんです。黒いクリスが楽しくて…。
主人公は大切に守られているということです。

題名は“最近さぁ…”とかそんな感じです。

フリー配布です!このような駄文でよければぜひお持ち帰りを!