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「よっ…、と…。」 がくりと力を失った体を、はルーファウスとは反対の腕で凭れさせるようにして腰を支えた。 自分の地味で重い色彩のものとはまったく異なる、 さらりとした煌びやかな銀の糸が胸を叩いて滑り落ちる。 こうして並んで立つと、自分がセフィロスよりも頭一ツほど大きいことがわかった。 何となく、何となく嬉しくて頬が緩む。 ミクロに些細なことだが何となく、俺って兄貴っぽいな、とか思ってしまったり。 上から僅かに覗けた顔はやっぱりキレイだった。 今は15歳のはず…だよな?大人っぽい。俺の弟とは思えないよコレ。なにコレ、美形にも程があるぞ。思わず惚れ惚れと見つめてしまった。 「………それにしても参ったな……」 何かが近づいてくるのは分かってたけど。 発信機でも付いているのかというくらい、この複雑に入り組んだ路地を最短距離で。 ただの人間にしてはやけに気配が濃いとは思ったが。 まさか。 「セフィロスとはなぁ……」 はルーファウスを抱えて跳んでいた。 文字通り跳んでいた。 カフェを出た瞬間から不快に絡み付いてくる視線には気付いていた。 ……気配もナニも駄々漏れだ。下手糞すぎる。 ちらりと視線をやると―――――――ひとつ、ふたつ、みっつ。 黒い、うらぶれた感じの、つまり薄汚れた男たちがいくつかの路地に散らばって、こっそり、飽く迄そいつらにとってこっそりとこちらを窺っていた。 そのあまりの拙さに淡く溜息。 「児戯だな……」 するっと脇の細い道に入る。 後ろから慌てた気配が追いかけてくるのを察知して人知れずほくそ笑んだ。……もっとも、この場にはの他に寝ているルーファウスしかいないのだが。 ルーファウスはぬくぬくと安眠中。 愛らしい桃色の頬。 薄く開いたちいさい唇。 伏せられた濃い金色の睫毛。 まさに天使の寝顔。 「………かわいー……」 激しくぶれる理性をどうにかいなして、は意識を逃走モードへと立ち上げた。 その間も素早く駆ける足は動きを止めない。 こっちは接触するつもりはない。 その予定もない。 そんな未来を作る予定もない。 はルーファウスを抱え直すと、地面を蹴ってビルの壁面へと跳んだ。 人間離れの脚の筋力をフルに使って、ざらついた壁の僅かな取っ掛かりに足先を引っ掛けながら、トトトッとテンポよくジャンプを繰り返す。 超人的な筋力はもちろん、卓越したバランス技術としなやかな質の筋肉があってなせる技だ。 追ってきた男たちがようやく路地の角を曲がった時、 「どこ行きやがった……!」 そこには一匹の猫が淋しげに鼻を鳴らしているだけだった。 「テメェらなんぞに捕まるかよ」 右往左往する男たちを見下ろしてハッと笑う影がひとつ。 消えたを探してあわてふためく男たちを眼下に納めて、は神羅ビルを目指してビルからビルへと跳んだ。 フェンスに着地して、貯水塔から跳ねて。 ビュゥと頬を掠めていく風は早春にしては冷たかったが、激しい運動で軽くほてった身体には、少し心地良く感じた。 「ちょっと冷たいかな……」 とは謂っても普通の人間には身を切り裂くに均しい冷たさだ。 そっと腕を揺すった。 腕の中で安眠中のお子様に風が当たらないように気をつけて深く抱き込む。 いくつもビルを駆け抜けて、神羅ビルが小さく見え始めた頃、は路地へと静かに舞い降りた。 誰にも見られないように、ルーファウスを起こさないように、砕心の慎重さを以って。 「おいしょ………っと!うっし着地せいこー」 音も立てずに軽やかに着地したあと、乱れた黒髪を指先で整えて、ずれてもいないサングラスを直す。 そうして早足で歩き始めた。 急ぐ理由がない訳ではない。 ルーファウスを早くツォンに渡して安心させてやりたいし、 だいぶ遅くなってしまったからレノだって心配しているだろう。 ルーファウスを誘拐した奴らだってまだ近くをうろついてるかもしれない。 けれど。 けれども。 そのどれでもない、予感がしたのだ。 『 何の 』とも『 どんな 』とも、聞かれても回答のしようのない、 嫌なモノかそうじゃないのかさえ曖昧な、予感としか言いようのない感覚。 同時に気配を感じた。 それはあまりに濃い気配だった。 一般人でもこのような薄暗い路地ではごろつきに絡まれるのを嫌遠して、無意識にでも多少は気配を殺そうとするものだというのに。 これは、 この気配は、 この誰かは。 激しい。 強く、果敢ない。輝かしく、どこか鈍い。 だからかもしれない。 興味を持った。 これは、俺の居場所を分かっている。 こんなにも自分を主張する気配は他に知らない。 明確に。 はっきりと。 叫ぶように。 例えるならば、闇に浮かぶ灯かりのような。 卑石に混じった玉石のような。 或いは銀に混じった白金か。 無視を許さない。 見ろ、とただただ訴える。 いずれにせよ、俺はこれと会わなければならない。 そう。 つまり。 俺とその子は所謂、『 会うべくして会った 』のだ。 何かが、何もかにもが。 用意し、用意されていた。 世界がお膳立てをした。 結局、俺達の総ては星の掌の上だったというわけだ。 それは直感で根拠は無い。 だから、何故か、と問われれば。 「 そうだから 」、としか言いようがない。 理屈を求める性質の俺にはついぞなんとも気持ちの悪い。 尻尾どころか影さえ踏ませないソイツ。感謝どころか忌ま忌ましい。 |