「それで」


ココアのマグを両手に白皙の少年は呟く。
少し途方に暮れた感が声に滲んでいるのは気のせいではないだろう。





「なんで僕はここにいるんだろう…」

「そりゃあれだよ」



腕を組んで顎を反らし、青年は自信満々に言い放つ。



「俺がボウヤをここに連れて来たから」













さんさんと日の差し込むカフェテラス。種類が豊富なお茶となかなかおいしい軽食も取れるのが売りだからか、デートだろうカップルの姿が多い。


外観も内装も趣味が良く、セレブが集まる壱番街のセントラルアーケードに(なら)んで遜色ない。




客を選ぶに違いないその高級志向な店で、非常に見目麗しい二人連れはVIP席を陣取っていた。
すなわち、見晴らしのいい大きな窓側のテーブルだ。


大通りに面した開放感溢れる席だが、こちらから外が見えるように、外からも鑑賞される、店のアクセサリーを飾る席である。


































柄の悪い男たちから少年を助けたは、その足で見るからに格高いブティックに入り、腕に抱えた少年のためにと上着と靴を購入した。


前触れなく現れた、神を写し取ったかのような美貌の青年に店内は騒々たる有様であったことを追記しておく。




その後カフェへ移動し、冒頭へと相成った。



































「腹減っただろ?」とカフェに連れ込まれて、目の前にはいつの間にやら、おいしそうなサンドイッチに湯気の立ったマグカップ。

少年は朝からほとんど何も食べていないことを思い出した。

人間の身体は現金なもので、逃げるのにいっぱいいっぱいの時は何も感じなかったのに、こうして穏やかな場所で目の前に食べ物を出されると忘れていた空腹感が滲み始める。




お腹がクルル…と鳴って、赤面する。

あわてて抑えても青年の耳にはしっかり届いていたらしく、クスリと笑った音に恨めしげに青年を睨み上げた。

くすくすと笑う青年にはまったく効果がないようであったが。



「食べろよ。腹減ってんだろ?」

「……お金、持ってない。」

「ハハッ、子どもがそんなの気にしなくてイーの。」

「……借りを、作りたくない……」




まじめな顔でそんなことを言う子供に、は笑い出しそうだった。

まだまだちいさな子供のくせに、なんとかっこいいことを言う子供だ、と。




目は見えなくとも、口元は見えているため、抑え切れなかった微笑は口の端に上ってしまった。

じ、との顔を睨み上げていた子供は馬鹿にされたと思っているのだろう、不機嫌な表情でそっぽを向いてしまった。

絶対に食べ物に手を出すもんかと、小さな拳を握り締めて。




それに少々困ったのはだ。

外目はなんとも無さそうに振舞っていても、かなり憔悴しているのはの目には明らかだから。


育ち盛りの子供なのだから、ちゃんと食事をさせて温かいものを取らせなければならないのに。




頑固というか、誇り高いというか……よほど親の躾が厳しいのだろう。




「じゃー交換条件ならどうだ?」

「…………条件?」




やはり空腹だったのだろう、意外と早く反応してくる。




「ボウヤのこと色々と教えてくれる代わりに、今日の昼食を奢ってあげよう。」

「ボウヤっていうな!!」

「だってまだ名前聞いてねーもん。」

「僕だってあなたの名前聞いてない!!!!」




ぱちくりと瞬いた。そういえばそうだ。レノにも注意されたのに、俺ってほんと、バカ。




「あーわりぃ。えぇと、それじゃ自己紹介な。、神羅の仕官学校に通っている。」

「神羅!?」

「?そうだけど。ボウヤの名前は?」

「……僕はルーファウス=神羅だ。」

「へっ?あー……もしかして、まさかとは思うけど、 プレジデントの息子………?」

「クソ親父の話はするなっ。」




マジですか。ほんとにあの未来の若社長…?うわー………。




「遺伝子の神秘だ……」







つい本音が漏れて、焦ってしまった。
珍しく、ちょっと動揺。


だってあのデブ狸性悪社長からこんなに可愛い子が産まれるなんて。


俺、BCしてないから、オールバックの若社長しか知らないし。



ていうかキャラ遭遇率たけぇな!!




「イデンシ?何だそれ。」




…………よかったまだ子供で。




「ナンデモナイヨ。じゃぁあれか、誘拐される理由ってそれしかねぇよな。」

「(なんか片言…?)今までもこうゆうことは何度かあったんだ。その度に僕の世話役が助けてくれたんだが…」

「今日は何でいなかったのさ。アルジのソバ離れるなんて、護衛失格じゃない?」

「ツォンを悪く言うなっ!今は長期の仕事で遠くにいるんだ!仕方ないだろう!?」




頬を紅潮させて怒鳴りつける。


ツォンは既にルーファウスのそばにいるのか。
ゲームでは知れなかったことだ。なんだか嬉しい。



必死にツォンを弁護するルーファウス。
わざと水を向けてみたのだが、どうやら正解だったらしい。盛大に怒りをぶつけてくる。



その怒りが何なのかも、分かっていないだろうに。




「ルーファウスはツォンが好きなんだな。」




微笑が零れた。二人には絆がある。

その絆ゆえに互いが傷つくこともあるだろうけど。


彼らの繋がりが酷く、羨ましかった。妬ましささえ感じるほどに。

そんなことを思うことは、俺の弱さの証明だ。




?」

「その怒りを覚えておくんだよ、ルーファウス。」




セフィロスと、俺と。今の繋がりといえば、この造られた身体という希薄なもの。

そんなもので繋げることが出来るわけがない。




「お前が相手を好きな分だけ、きっと相手もお前に返してくれるから。」




それは俺の願望だけど。
けれどそう自分に言い聞かせることしかまだ出来ない、中途半端な自分。


けれど、それが俺の真実の気持ちだ。




「互いのために戦えるような相手なんてそうそういない。相手のために怒ることができる人間だってなかなかいない。それは簡単なようで、実はすごく難しい行いだ。」




あぁなんという欺瞞だろう。
肝心で、もっとも重要なこと、自分だって出来てないくせに。




「…そして、喜ばしいことだよ。」




ルーファウスは訝しげな顔をしている。10の子供には理解しがたい言葉の羅列だ。




「…の言ってることはよく分からないけど、ツォンのことは好きだ。それに……………………のことだって、嫌いじゃない。」




正直、びっくりした。そんなこと言われるなんて予想もしていなかったから。


ルーファウスはそっぽを向いて、ほんのり顔を紅くしている。どうやら照れているらしい。

子供ゆえの鋭さで、俺の内情が分かってしまったのかも。



不甲斐ない己を叱咤すると共に、嬉しさと照れくささが込み上げてきた。




「…嫌いじゃないってことは好きってことだろ?いや〜嬉しいねぇ、ボウヤが俺のことを好いてくれてるなんて。」

「す、好きなんて言ってないだろう!それよりもう名前は言ったんだから、これは食べるぞっ!」

「おぉどんどん食えよ。やっぱり好きなやつが腹減らしてんのは俺もつらいからなぁ。俺もボウヤのこと、好きだし。」

「だからっ!た、助けてもらったから嫌えないってだけだ!!」




ごまかすように、一心不乱に食べ物を口に詰め込んで行く。


まったく可愛らしい。

ゲームでは恐怖で支配とか、血も涙もないとか散々に言われてたのに。

こんな純粋で可愛い、賢くて優しい子供を嫌いになれるわけがない。




「ボウヤは俺のこと、好きじゃないの?」

「だっ、だから嫌いじゃないって……それにボウヤって呼ぶな!」

「ん、じゃあこうしよう。ボウヤのことちゃんと呼ぶし、家まで無事に送り届けてあげるからさ、その代わりに俺のこと好きになってよ。」




ちょっと爆弾発言だったかもと反省。
別に色めいた気持ちで言ったわけではないんだけど。


口に含んだサンドイッチを吹き出すルーファウス。

ごほごほと咳き込む背中をさすって温くなったココアを差し出して、落ち着いた彼の口周りをナプキンで拭ってやる。




「どうした、大丈夫か?」

「ちょっまっ、好きになれって」

「だからね、家まで護衛する代わりに、俺と仲良くなってくださいってこと。」




まぁ家まで送り届けるのはもう決めていることだけど。




ルーファウスを誘拐した奴らにはまだ仲間がいたようだし、それはもう確認済みだ。

一人で帰らせても俺が付いていても、襲ってくる確率は非常に高い。


敏腕の世話役は不在で、そばにいるのは一般人(に見える)の優男。
この千載一遇のチャンスを逃すわけがないのだ。




だいたい世話役のタークスがいない僅かな時期に誘拐されること自体、タイミングが良すぎる。

十中八九、神羅内に内通者がいる。
それも、タークスのスケジュールを知ることが出来るような位置に。



目的がただ単に身代金ならばまだいい。だが、神羅内に内通者がいるとすれば事態はもっと血生臭いものだろう。




ルーファウスを死なせるわけにはいかない。

予定された運命のあらすじを保つためにも、この優しくて好ましい子供を失わないためにも。




「まぁね、ルーファウスを送り届けるのはもう決定事項なんだけどね。」




つまり拒否権はないのだと。


泰然と腕を組んで緩やかに笑う




その掴み所のない、けれど揺るがない笑顔にルーファウスはがくりと首を垂らした。
何を言っても駄目だと、この人は自分がしたいようにするのだろう。





だけど、ひそかに嬉しかったのだ。

もう自分はに、確かな信頼と好意を感じていたのだから。





男たちに囲まれたとき、もう駄目だと思っていたのだ。

いつもそばで守ってくれていたツォンはおらず、たった一人。
通りすがる人間は見てみぬ振りをして、助けを呼ぶことさえしてくれなかった。
寒いし、裸足で走って足の裏はとても痛くて。


その時ただ一人だけ、助けてくれたのがだった。

いきなり割り込んできて、最初は男たちの仲間かと思ったけどいつのまにか男たちは地面の上で。

見上げた顔は綺麗すぎて怖いくらいで。 サングラスをかけてしかも長髪で。……ツォンも黒髪で長髪だけど。


痛いし寒いし冷たいしで近寄るオトナは全部警戒したけど、はもう大丈夫だと言う風に頭を撫でて、暖かさをくれて、安心して泣きたくなった。
プライドにかけて涙は落とさなかったけど。




いつの間にか足の痛みもなくなった。
の手の平に包み込まれて、ふわりと暖かいものが流れ込んでた気がする。

本で読んだマホウに似ていたけど、はマテリアも呪文も使っていないから、たぶん別の何かだ。


驚いて視線を向けると、唇に指を当てて内緒だと言われたから、誰にも言わない。





強くて綺麗で、不思議で暖かい

の信頼も好意も、その視線も、自分に向けられていることが嬉しかった。




「……………………疲れたし、家まで抱っこしてくれるなら………」




こんなわがままが精一杯だ。 子供じみた独占欲。

きっとは笑ってる。それとも呆れてるかもしれない。




その顔が見たくなくて、嫌われてしまったかもしれないと怖くなって、目を手の中のマグカップに落とした。

ココアの水面に映った、茶色の自分の顔を見つめていると、ふわりとした感触が頭に降りてきて、そのまま優しく髪を梳き始めた。



見なくても、その指の優しさで、がどんな表情をしているのか分かった気がした。

きっと蕩けるような優しい笑顔。




「了解だ、ルーファウス。」




散々な日だけど、ルーファウスはきっとこの日を思い出して、この日、誘拐されて良かったと思い返すだろう。


ツォンの他にもう一人、得難く、失いたくない人に出会えた日なのだから。















++あとがき++

ルーファウスの口調が分かりません。大人びすぎでしょうか。
さんは子供が大好きです。ひたすら可愛いです。いい子なら尚更。
ちょっとわがままなとこも可愛いvと言える人です。ルーファウスはツォンも大好きだけど、それとは違う感じでさんのことも大好きです。