空調の効いた密閉された空間。狭苦しいけどちゃんと座れる椅子。長々とした単調なおっさん声のBGM。



すばらしいセッティングじゃないか。寝てくれと僕たちに言ってくれているんだね?













「と思うのですがレノ君、君はどう思うかね?」


「今のを聞いて俺が思ったのは、お前は本当に年上なのかということだぞ、と。」







半分目を閉じながら隣のレノに話しかける

こちらも眠気に襲われながらも幾分かまじめに挨拶を聞いているレノ。






どうにか入学式に間に合った二人は一番後ろの席を占領してだらけていた。



「起きとけよ。明日からのことも連絡されるんだぞ。」

「んなのまじめに聞かなくても耳に入ってきてるよ……」

「そんなわけないだろ。じゃあ寮について言ってみろ。」



は言えないという確信をもっての質問だ。そのときは完璧にうつらうつら状態だったのだから。

しかし、このときレノはの恐るべきスキルの片鱗を見ることになった。



「……寮での生活における規則は10。 ひとつ、食事は朝と夜は準備されるが時間内に食べなければ食事は取れない。昼食は学校の食堂を利用すること。休日は三食とも寮で出される。 ふたつ、部屋は基本的に二人でひとつである。これからクラスごとに分かれるのでその中で教官の指示に従って部屋割りを決めること。 みっつ、無断外泊は厳禁とする。もし発覚した場合、連帯責任として同室の者も三日以上の謹慎処分とする。 よっつ、外泊する場合は許可証に理由を記入して管理人に提出すること。 いつつ、門限は午後11時とする。遅れた場合、門は閉められるため無断外泊扱いになる。 むっつ、」

「ちょ、ちょっと待て!あのオヤジそんなに簡単に言ってなかったぞ?!」

「あぁ……確かに長々といらん修飾つけまくってたな。要点だけ絞ればこんなもんだ。」


あの眠ってる状態でそこまで完璧に暗記、しかも要約できるものなのか?

実はこいつ、すっげぇ頭がいいのか?










………IQテスト受けてみないか。」

「前に計ったこと、あるぞ。」

「………どのくらいだったんだ?」

「…わかんない。」




…………………わからん?




「わからないってどういうことだ?」

「そのままの意味。」

「………つまり、測定不可?」

「うん。」




規格外の返答に、思わず天井を仰ぎ見た。格が違いすぎて、妬む気さえ湧いてこない。



「おいおいマジかよ……俺だってちょっとは自信あったんだけど。」

「いくら?」

「150。」



はきょとんと首をかしげた。


だからさ、可愛いんだからやめろって。



「それだけあれば十分だと思うけどなぁ。」



そう言うと少し切なげな顔になった。

俺以上に飄々としているがそんな顔をすると無条件に守ってやりたくなる。


クソッ!
相手は男だってのに。



結局何も言えずに前を向いてしまった。

そのときちょうどいいタイミングで、プレジデントとかいうオヤジの、クソッ垂れた長ったらしい、歓迎の挨拶というよりも演説が終わった。
これでようやく終わると思ったら、次に壇上に子供が登ってきた。
子供といっても俺くらいの年だと思う。ぼんやり輝く翡翠の目が印象的な、銀髪のやけに綺麗な顔をした少年。


なんだか既視感を覚えた。




その違和感をに尋ねようと顔を向けて、固まってしまった。


さっきまで茫洋としていたこいつが、目を見開いて演壇を凝視してるから。

その口がなにごとかつぶやくのが、はっきり聞こえた。











「セフィロス………」














セフィロス?あの子供の名前か?




そのとき、先ほど感じた既視感の正体が分かった。
と似てるんだ。




色素は全然違うけど、顔の系統とか雰囲気とかが。

だからその言葉はするりと出てきた。



「………兄弟か?」



ずっと壇上の子供を見ていたがバッと振り向いた。

おかげでの髪が俺の顔に勢いよく当たりやがった。



でもその痛みよりも、の嬉しそうな顔に目を奪われた。
輝くような笑顔ってこういうのだろうな。



「内緒だよ?あの子はまだ知らないんだ。とにかく全部あとで話すから。」



それだけを言い切ると、はまたセフィロスとかいう子供に集中してしまった。





………………………………………………なんかムカツクぞ、と。























































やっとセフィロスに会えた。可愛い可愛い俺の弟。


結構元気そうだ。良かった。でも無表情だな。仕方ないか、これからだ。
それにしてもセフィロスかわいいなー。ちっちゃいよ。お人形だよ。




それにしても分かる奴には分かるんだな。自分では似てると思わないんだけど。
あんな美形と比べられるなんて恐ろしすぎる。



レノに言われたときは驚いた。 いきなり「兄弟か?」だもんな。
あんまり多くに知られるのは望ましくない。気をつけよう。




でもやっぱり嬉しかった。

自分でも不安だった。セフィロスと兄弟であることに自信が無かったんだ。
だから、自分たちが肯定されたみたいで嬉しかった。




レノ。 お前は俺の生涯の親友に認定されちまったからな。

迷惑掛け捲るからよろしくな。














こうしてとりとめの無い思考の間も、強く引き合っていくのが分かる。



リュニオンは、おそらくより大きい細胞に引き寄せられるんだと思う。

俺は身体の遺伝子の半分がジェノバだし、やっぱりセフィロスよりは多くジェノバ因子を持ってると思うんだ。






生き物の身体で代謝に必要不可欠なミトコンドリアは、全部母方の卵子に由来する。
つまり俺のミトコンドリアはぜーんぶジェノバから引き継いだもの。
細胞が増殖すればそれだけジェノバの割合も増える。


でも俺の身体は18歳で成長を止めた。
何でかは分からないけど、都合がいいんだからありがたく思っておく。






俺が何を言いたいのかっていうと、セフィロスが俺に引き寄せられるのを心配してるんだ。
ゲーム中のクラウドみたいに盲目的に。



俺はセフィロスとリュニオンしたいとは思わないけど、セフィロスは明らかに俺を気にしてる。

挨拶中も、ついみたいにこっちを見てる。気にしすぎて言葉を引っ掛けてるくらいだ。






これは早く接触してやらないと……。










































今日オレは、最初のソルジャーとして神羅兵士候補生たちの前に立った。

でも、なんだか胸がざわざわする。昨日からずっと。今は特にざわめきが大きい。痛いくらいだ。

緊張してるのか?


だけど、嫌な感じじゃない。むしろ焦がれるように熱がうずく。





そのとき、彼が目に入った。


一番後ろの席に、赤毛と一緒に座ってる黒髪の男。


背をきっちりと伸ばしてオレを見つめてる。





一度見つけてしまうともう駄目だった。
ざわめきは明確な感覚となって、オレの目を男に固定していた。



―――――見ていたい。


―――――声を聞きたい。


―――――――――――触れたい。       ソシテ、 マザッテシマイタイ。















ソルジャーについての説明も、何度も暗誦したのに舌を咬んでしまう。


手元に一応紙を置いていても、気付けばその人を見つめてしまっている。


クソッ、宝条が嫌な目をしてる。こいつはいつもオレを見下した眼で見る。
求められた以上の数値を出しても、こいつがオレをほめたことはない。
いつもオレのデータを何かの結果と比べながら満足そうに笑って、次にオレを蔑んだ目で見る。



苛々する。

ダイキライだ。








それよりもあの人だ。気付けば式は全部終わっていて、生徒たちは跡形もない。

追いかけようかとも思ったけど、一番後ろに座ってたから今ではずっと遠くにいるだろう。






会いたいと感じる。 会って触りたい。
頭じゃなくて身体が命令してる。


でも、オレは頭でもあの綺麗な人に会いたいと思うんだ。







絶対に見つけ出して、そしてソルジャーにする。

そうすればいつでも一緒にいられるから。