「マゼンダ、外にお客さんみたいだ。」






目つきを鋭くし、その雰囲気さえも切れるように張り詰めたものに変貌する。








「……あぁ、時々神羅兵が改めに来るんだよ。とは言っても散々暴れて勝手に商品を持ってくだけなんだけどね。」

「それはいくらスラムでも違法なんじゃないのか?」

「こっちで扱ってるのも違法の横流し品だからねぇ。結局あいつらの上司が流してるわけだからそこまで酷くはされないんだが。」






諦めたように笑う女に、は低くつぶやいた。






「…………暴行、されてるのか?」




女がひくりと身体を震わせたのを、は見逃さなかった。




「………いやだねぇ。そんなことはわかってても聞くもんじゃないよ。」





はギリリと唇を噛み締めると踵を返した。




「改めに来るのは決まっているのか?」

「あぁ、いつも決まって三人組が………ってどこに行くんだい?」

「荷物、預かっててくれ。すぐ戻るからさ。」



その言葉でマゼンダはが何をするつもりなのかを理解した。



「待ちなよっ!いくらアンタが強くっても相手は訓練された兵士が三人だよ?!」

「大丈夫だって。じゃあさ、無事に戻ってきたら宿代半額にして?」



首だけ振り返って微笑む。絶対の自信を持った男の貌。



彼の、どこか威厳を持った姿に、無意識のうちに頷いていた。








「宿代なんてタダにしてやるから、さっさと帰ってきなよ。」



その飄々とした男はハァーイと軽く返事をして、悠々とドアから出て行った。

























































店から出たは無表情に、まっすぐ正面を見つめた。




マゼンダには店の外と言ったが、実際にはこの入り組んだ路地の入り口の声が聞こえたのだ。

彼の凄まじい聴力ならではのもの。







女主人の身体の具合だとか、今日はどんなものを持って帰ろうだとか。

耳が腐りそうな会話ばかりが未だに聞こえてくる。






マゼンダに迷惑をかけないためにも、この店の近くで事を構えるわけにはいかない。

は制裁と忠告だけで済ませるつもりは無かったから。






後腐れがないように、殺す。

死体は誰にも見つからないところで燃やす。






そうすれば三人の行方不明者が出来上がるだけで、か弱いスラムの一角の女主人を疑うものなどいない。



角のむこうから下卑た笑い声が聞こえてきた。



まずは血を流さないように気絶させて、移動させる。



舞草を鞘つきのまま片手にぶら下げて、はほんの少し笑った。


























































「なんだありゃぁ………」



レノは呆然としていた。



自分はちょっとタバコを吸いにお気に入りの空き地まで足を運んだだけなのだ。


今年で15歳のレノは神羅に入るために数ヶ月前にミッドガルに来ていた。

明日の入学式までの住み込みもバイトも今日で最後。




上司に最後だからと気を使われて、休憩をもらって。







たどり着いた空き地には先客がいた。
舌打ちをして踵を返そうとしたとき、その場の異様さに気がついたのだ。







気付かなければ良かったと、あとで死ぬほど後悔したのだが。















自分より少し年上の、大きな剣を持ったやけに綺麗な青年と、明らかに神羅の兵士である男が三人。


神羅兵はぐったりとしたまま青年に引きずられている。




そのまま青年は屈強な男の身体を三人まとめて片手で焼却炉の中に放り込んで。



何が起こっているのかわからないままその光景を見ていると、青年が炉に手をかざして何事かつぶやいた。





そして青年は焼却炉の扉を閉じた。






すごく嫌な想像をしてしまって、視線を上に上げると煙突からは黒い煙が噴出している。

タンパク質のこげる嫌な匂いが辺りに漂い、ソレが人間の焼ける臭いだと理解して嘔吐感が込み上げてくる。





ここにいちゃいけない。



本能が叫ぶままに、レノはその場を後にした。



















































「あれってレノだよなぁ……」


は誰かが見ているのに気付いていた。無闇に殺すつもりもないので放っておいたのだが。


視界の隅に特徴的な赤毛を捉えていた。





「もしかしてレノも今年入学するのかな……運がいいのか悪いのか。」



煙の噴出が止んだのを確認すると、焼却炉の扉を開けた。



「よし、骨も残ってないね。」






燃え残った金具とドッグタグを手早く集め、その空き地から5ブロックは離れた狭い路地裏に埋めた。




これで三人分の灰が見つかっても断定には時間がかかるし、スラムには金属片なんて無数に埋まってるから金属探知機も無意味だ。




「まるっきり犯罪者だな……」


























































「ただいま〜……ってうわ!」



店の扉を開けた途端、マゼンダが飛びついてきた。



「この馬鹿っっ!!こんな遅くまで戻ってこないで………!どれだけ心配したと思ってるんだいっ!!!」

「いやぁ、ちょおっと話し合いに時間がかかってね。」



抱きとめた華奢な身体が震えているのに気付いて、潰さないように慎重に抱きしめた。




「大丈夫だって。ほら、約束どおり怪我も無いよ。それよりお腹減ったよ。ご飯代と宿代、タダにしてくれるんでしょ?」




その図々しい言葉に思わず笑みをこぼし、マゼンダはの手を引っ張った。







「あんたがあまりに遅いから、やまほど作っちまったよ。全部食べなかったら朝飯は抜きだからね。」

「ひどいな。絶対食べきらなきゃ。」






顔を見合わせてクスクスと笑い、二人は店の中に消えていった。



















































「ところでどうやってあいつらを説得したんだい?」

「ん〜?ちょっと殴って、脅したんだよ。情けないねぇ神羅って。すぐに降参して二度と来ないって言ったよ。」

「でもそんなんじゃまた来るんじゃないかい?」

「それは無いと思うよ。次に見つけたら殺すって言っておいたし、マゼンダが死んだときも容赦なく殺すって言っておいたし。」



ほんとはもう死んでるんだけど、ね。



「そう、かい………」






たぶんマゼンダも三人がどうなったか分かっているんだろう。
それでも聞かないのは、不用意に首を突っ込んではいけないことを分かっているからだ。





「まあいいさ。ところでアンタ、明日の入学式に出るんだろ?起こしてやるから時間言っときな。」

「んっ、10時に集合だから………ここからだと歩きで二時間かかる……」




はぁっとはうんざりした溜息をついた。

建物の上を走れば20分で着くけど、そんなことしたら次の日には有名人だよ。




都会って大変だ。







、前に旦那が使ってたバイクがあるんだけど、免許持ってるならやろうか?」



唸りながらどうにか早く行く方法はないかと頭をひねっていたにマゼンダが提案した。


顔を輝かせてマゼンダを見る様は年相応でかわいらしい。






「免許は持ってるけど……マゼンダ結婚してたの?」

「あいつ、よそに女作って出て行っちまいやがった。もともとここは私一人で経営しててね、追い出し同然で放り出したから。バイクも私が買ってやったんだよ。」



忌々しそうに舌打ちする。いまだその男への怒りが収まっていないのだろう。





「マゼンダってさ、イイ女なのに男運ないのかな。」




その言葉にマゼンダは頬を染めた。
うん、まだまだ女だね。



「最後にアンタが出てきたから帳消しさ。ところでバイクいるの?いらないの?」

「っいります!!」


































バイクは年代を感じさせるものだったが、逆にそのシックな風味が気に入った。黒い車体に丸いランプ。
エンジンをかけてみると元気のいいポップ音がはじけた。。




「すっげぇかっこいい………アンタの元旦那はバイクの趣味は良かったみたいだな。マフラーも切ってないみたいだし。」

「いいや、これは私が選んで買ってやったのさ。あいつはもっと派手なのが欲しかったとか、ふざけたことを抜かしてたがね。」

「……アンタってとことん男運が悪いんだな。」



うるさいよと頭をはたかれた。
痛くはなかったが大げさに痛がってやる。


「いってーんだけど。」

「自業自得さ。さっ、明日は早いんだ。さっさと寝ちまいな。」










ふと思った。





誰かと一つ屋根の下で寝るのは久しぶりだと、互いに気付く。













「………なぁ、変なことしないから、同じ部屋で寝ちゃあダメ?」

「………保障がどこにあるのさ。」

「ダイジョウブ!!俺、年上は好みじゃないんだ。」

「このクソがキがっ!オトナの女を知らないのかいっ?ほらさっさと行くよ!ベッドは自分で運びな。」























ベッドに入ってからもいろんなことをしゃべって、結局2人が寝付いたのは深夜を大きく回ったころだった。