が逃亡生活を送るようになってから、既に五年が経過した。


五年という月日は、を柔らかさの残る少年から精悍な青年へと変えた。
















18を数えた時からの身体は成長を止めた。


幸い成長期は過ぎていて、これ以上の変化は目立たないだろうが一所に長く居座ることが出来なくなった。
これから神羅での寮生活が待っているというのに、どこまでも忌々しい身体だ。






今の身長は180弱。舞草よりも若干高くなった。



この五年間で色々なことがあった。


まずは舞草だ。俺のことを主人と認めてくれたらしく、離れていても呼べば来てくれるようになった。これでミッション中に何かあっても、逃亡覚悟でフォローができる。

たぶんセフィロスの正宗もそうだろう。ゲーム中にそんな場面があったから。









いろんなところに行った。ゲームのキャラも、見てきた。

クラウドはまさにお人形のように可愛かったし、シドもまだ若くてかっこよかった。ウータイの族長とも仲良くなった。


ザックスとも仲良くなれた。18からの二年間はゴンガガで過ごしたから。
暑いところで、毎日が穏やかに流れていった。






最初はしつこかった神羅兵やタークスの襲撃も、皆殺し主義で対応してたら自然と数が減っていった。
まだ下っ端のツォンも来た。お気に入りだから殺さなかったけど。彼は副社長の支えだし。顔を見られないうちに気絶させて。








今が静かな理由は分かる。  嵐の前の静けさだ。

セフィロスが成長するのを待っているんだ。彼が十分に経験を積めば、おそらく彼を刺客として差し向けるつもりだろう。




その考えは正しい。

俺は五年前に研究員を殺さなかった。つまり俺が、情を持った相手は殺さないということは露呈している。




経験という点で、この五年のほぼ毎日実戦を行っていた俺にセフィロスは敵わないだろう。


だが彼にとって俺は殲滅すべき敵であっても、俺にとってセフィロスは守るべき弟だ。傷つけたくはないし、逃げようと思ってもほぼ互角の能力がそうさせてくれないだろう。


そして、彼がソルジャーとなった初任務が俺の殲滅か、捕獲か。きっと捕獲だろうがな。



今までの奴らも容赦はなかったけど、頭は絶対に狙ってこなかったし。心臓に銃弾を喰らったくらいじゃ俺は死なない。          死ねない。

たぶん脳みそ吹っ飛ばされるくらいじゃなきゃ、俺の身体は即座に修復されるだろう。


それを知ってるのは俺のデータを見る権利の在る、神羅科学技術研の連中と一部の上層部の奴らだ。宝条のやつが、殺さない程度に痛めつけられる限界を指示してんだろうなぁ……。

死なないのはいいんだけど、殺す気で来てくんないと、罪悪感が残るんだよねぇ。







セフィロスには知らされてないんだろうな。同じように神羅の下から離れられては困るから。



今、セフィロスは15歳だ。そろそろソルジャーとして表舞台に出始める。


その前に神羅の懐に隠れなければならない。

































「すみません。神羅の士官学校の入学受付はここでいいんですよね?」


その日、神羅ビルの一階ではちょっとした騒ぎが起こっていた。サングラスをかけていても分かる、凄まじい美貌の青年が前触れも無く現れたのだ。一瞬で静まり返ったロビーの空気を掻き分けて、その青年はこれもまた硬直していた受付嬢に話しかけた。



「………っえ……あっはいっ!こちらで今期の受付をしております!!」


受付嬢の上ずった声だけがロビーに響いた。そこに柔らかなテナーの声が重なる。


「そっか、良かった。じゃあこれお願いします。」


青年の白い指が一枚の紙を差し出す。その長く整った手にさえ見惚れながら、受付嬢は震える手で受け取った。


「あ、あの……身分を証明するものなど、お持ちでしょうか…………?」


それを聞くと青年は困ったように髪をかきあげた。


「身分証がいるの?えぇと…じゃあこの運転免許証とかじゃダメ?」


一枚のカードを懐から取り出して提示した。


「いえ、大丈夫です……。えぇと、さん、ウータイの出身で18歳ですね。明日の入学式で詳しい説明があると思いますので……」

「そうなんですか。ありがとうございます。」


そのという青年はにっこり笑って腰を折った。無造作に結ばれた黒髪が肩から流れ落ちる。







本当に美しい青年だった。

美しい顔に均整の取れた身体。すっきりと伸びた手足は服の上からでもしなやかな筋肉に覆われているのが分かる。

どちらかといえば女性的な顔立ちなのに精悍なさわやかさが先に出る、嫌味の無い顔。



顔の美醜を認識する前に、脳が好感を持ってしまうような青年。



ありえないだろうという、吸引力を持った青年だった。




「あのっ!」


踵を返そうとした青年に受付嬢が声をかけた。

振り返ったその顔にまた見惚れながらも声をつむぐ。




「ミッドガルは初めてですか?今日泊まる場所とかは……」

「ミッドガルには今日初めて来ました。田舎者なもので……ここの賑やかさには驚きましたよ。」

「じゃ、じゃあ今日泊まるところはまだ決めてないんですね?」


心の中でガッツポーズをとる受付嬢。そして彼女を殺気を込めて睨む同僚たち。

しかし次の青年の言葉でそれらは消え去った。


「いえ、今日一日だけ知り合いの家に厄介になるんです。」

「そ……そうですか………。お気をつけて。スラムには近づかないほうが良いです。特に貴方みたいな人は狙われちゃいますから……」


その言葉を聞いて、青年はふわりと笑って腰をかがめ、受付嬢の手を両手で取った。


「誰かに心配していただいたのは10年ぶりです。ありがとうございます、お姉さん。」



恭しく相手の手の甲を捧げ持ち、自分の額に押し当てる、ウータイ独特の感謝の仕方。

されたほうは真っ赤になって硬直し、周りで見ていた人間はその優雅さに見惚れ、その幸運に嫉妬する。



未だしわぶきひとつ立たないロビーを、訪れたときと同じ優雅さで青年は後にした。































「書類に顔写真がいらなくてよかった……目の色変えても絶対ばれてただろうな。」


神羅ビルを出た後、ゴミ捨て場に隠しておいた舞草を呼び寄せてスラムへと足を向けた。
舞草はゴミ捨て場が嫌だったらしく、驚くほどの速さで現れた。最近この子の自己主張が激しい気がする。


それにしてもミッドガルの下町は本当に雑然とした街だ。どこを見ても灰色のコンクリートが視界を離れることが無い。

廃棄物で構成された町。



そのさらに裏の地区へは入り込んでいく。


「あの男の話だとこの辺なんだけどなぁ。」



あの情報屋は信頼できそうだったんだけどな。口止め料に料金は上乗せしたし、舞草で脅しといたし。







ギルは五年間の放浪で驚くほど貯まった。片っ端からモンスターを倒して野宿ばっかりしてたせいだ。学校の授業料を払っても多少は贅沢が出来るくらいにある。




がスラムでも人がほとんど近寄らないような場所に来ているのは、カラーコンタクトを買うためだ。

神羅の横流し品を売っている店があると聞いて、情報屋を片っ端からあたった。
今まではサングラスで隠していたが、寮での共同生活や訓練で外す機会が無いわけが無い。





普段からサングラスをかけて、その下にさらに防衛としてコンタクトをつけることにした。
ウータイ人の特徴である黒い目に見せるために。
























絡んでくる奴らを適当に潰しながら歩いて一時間。

やっと目的の店にたどり着いた。


「お邪魔しま〜す。」

チリンチリンとかわいらしいベルの音が鳴った。店の外見とそぐわない。


中は意外と綺麗に整えられていた。

棚などは無く、奥にカウンターがあるだけ。
その奥の扉から人の気配はするものの、こちらに応じる様子が無い。


「情報屋のボンガの紹介で来たんですけど〜。」




どうやら正解だったらしい。扉が用心深く開かれていく。

現れたのはなかなかキレイなミセスだった。そこそこ年はいっているけど、動作のひとつひとつが婀娜っぽい。

「彼はまともな客しか斡旋しないから、彼のとこからだけは商売をしてるのよ。それで綺麗なお兄さん、貴方は何をお望み?」


スラムで言うまともな客って、この場合ちゃんと金を払えるかってこと?それならあのボンガの法外な情報料も納得がいく。あれは試されていたんだな。次に会うときには謝っておくか。


どうやら思っていたよりも、スラムは秩序があるようだ。




「カラーコンタクトってある?」

「あるわよ。でもお兄さん、もうサングラスで目隠れてるじゃない。」

「ここって、金さえ払えば何も言わずに売ってくれる店だって聞いてたんだけど?」


きょとんと首をかしげてわざと無邪気に聞く。スラムではスラムのロウに従わなければ。
そして彼女の質問はこの店のルール違反だ。


女主人は苦く笑った。


「気を悪くしたならごめんよ。お兄さんがあんまり綺麗なもんだからつい、ね。こんな奥まで無傷で来るし。」

「フフッ、じゃあひとつだけ教えてあげる。眼の色を隠したいだけだよ。」

「自分の目の色、嫌いなの?」

「嫌いじゃないよ。むしろ好きなんだけど、ちょっと特殊だからね。」

「……見せてくれないかい?」


ちょっと迷った。でもこの人は興味で聞いてるだけだろうし、こんな店を一人で経営してるだけあって信用も出来そうだ。
コンタクトが壊れたときもまた来ることになるだろうし、スラムに味方を作っておくのも悪くない。


「半額にしてくれる?」

「容赦ないねぇ。 いいよ。」



サングラスを外して胸ポケットにしまいこむ。両手で前髪をかきあげて、女主人の前に目を曝した。


翡翠に薄ぼんやりと輝く、普通の人間にはありえない瞳。


「……綺麗な色だねぇ…。」


ほぅと感嘆の溜息をもらす。


「人に見せたのは五年ぶりかな。」


それから数分間はまじまじと見つめられ続けた。半額にしてもらうのだからソレくらいは仕方が無い。


「色は何色にするんだい。」

「黒で。」

「面白くない色だねぇ。せっかくカラコン着けるんだから赤とか銀とか。」

「目立たないためなのに逆に目立ってどうするんだよ……それに薄い色じゃこの光は隠せない。」

「それもそうだ。」



数分奥に引っ込んだと思ったら、小さな箱を持って出てきた。



「毎日夜は外してこっちの液で殺菌すること。でないと酷いときには失明するからね。」

「出来る限りそうするよ。いくら?」

「1000ギルのところを500ギルだ。まったく図太い子だよ。」

「ほめてくれてアリガト。ここで着けてってもいい?」

「あぁ。こっちの洗面所を使いな。」


パックを開けると瞳を覆うほどの大きさの、グニャリとした黒い物体が出てきた。


「これってソフトコンタクト?」


てっきり硬いガラスのコンタクトを覚悟していたので、意外に思って聞いてみると驚いた声が返された。


「よく知ってるねぇ!長い時間着けとくならこっちのが違和感ないからね。これ、まだ流通してない新製品なんだよ?」

しまった。


「……俺、情報通だから。」

「………まあ詮索はしないよ。付け心地はどうだい?」

「んっ。ぜんぜんオッケイ。」


この人、思ってたよりぜんぜんいい人だ。会って一時間も経ってないのに気を使ってくれてる。


「ねぇお姉さん。俺、っていうんだけど、お姉さんのお名前は?」


名前を名乗るのは俺なりの信頼の証だ。

それまで自分のことを話そうとしなかった相手が一歩踏み込んできたことが伝わったのか、女主人も笑顔で返事を返した。


「私はマゼンダさ。」

「マゼンダ(赤紫)ね……お姉さんにぴったりだ。ところで、一日だけ泊まれるようなとこ、知らない?明日からは寝床の当てはあるんだけど、実は今日ミッドガルに着いたばっかりでさ。」

「ありがとよ……。それにしちゃやけにスラムに慣れてるねぇ。泊まるとこ無いのかい?」

「無いの。一日だけでいいんだけど。」



ふむ、とマゼンダは眼の前の青年を観察した。

10人中10人が見惚れる顔をしていながら、やけに下町の雰囲気に溶け込んでいる。飄々としているのに時折切れるように鋭い。
携えている刀を持ち慣れている様子からも、その大きさが見掛け倒しじゃないことも知れる。
わざわざ眼の色を隠そうとしてることからも結構なわけありだとは思われるけど……。




「今日一日だけならうちに泊まっていくかい?宿泊費とご飯代、合わせて100ギルで。」


思わぬ提案にの眼が零れ落ちそうなほどに見開かれる様子を楽しんだ。


「おいおい………俺ら今日会ったばっかりだよ?まだ一時間も経ってないよ?」

「あんたが私の信用に値するよう願ってるよ。」




口を歪めて婀娜っぽく笑ってやると、諦めたように「お願いします」とつぶやいた。













次の瞬間、の表情が変わった。飄々とした顔から、鋭い戦士の顔に。


ちきりと刀の柄が鳴った。







「マゼンダ、外にお客さんみたいだ。」