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三日かけて、俺は自由に身体を動かせるようになった。 声は片言の振りをしておいた。馬鹿のふりをしておかないと、警備が厳重になるから。 三日でもいろんなことを調べられた。 血液検査から始まって、魔晄親和、IQ、魔力値、回復速度。そして一振りの刀を与えられて、モンスターと戦わされた。 「すごいですね。全ての能力が人間の限界を超えています。IQや魔力値なんて測定不可ですよ。」 「…あのセフィロス以上の奴が存在したとはな。」 「筋力もあるみたいですから、あの軽い刀よりも重量のある長いもののほうがよさそうですね。」 「もう手配させてる。今日中には届くだろう。」 「先輩、なんだかんだとセラフくんに優しいですね。」 その会話を聞いて決めた。 今日、その武器が届いたらここから逃げ出そう。決められたルートの上を行くだけの人生なんてごめんだからな。 二人に背を向けたまま、俺はそっと微笑んだ。 「おいセラフ!ちょっとこっち来い!」 検査が終わって休んでいたところに突然呼ばれた。 視線をやると、大きな包みを重そうに引きずっている。 不思議そうな顔を作って寄っていった。それが何かは十中八九、分かっていたが。 その包みは垂直に立てると俺の身長よりも高かった。促されるままに包みを開くと、黒造りの鞘が眼に飛び込んでくる。 正宗よりも太く、バスターソードよりは細い。長さは同じくらい。太刀を太めにした位か。光の加減で金の龍が浮き出る。柄も良く見ると龍が巻きついた意匠になっている。 鞘から抜くと、金属の質感を帯びた黒い刃が出てきた。 「これは特殊な鉱物で出来ていてな、これに最初に魔力を通した者にしか扱えない。保持者にはミスリルよりも軽いが保持者以外には絶対に持てないほどに重く感じる。セフィロスの妖刀正宗の兄弟刀で、黒刀舞草(もくさ)だ。」 セフィロスの刀も確か本人以外には扱えないってあったけど、こういうことだったのか。 とにかく、これに魔力を通せばいいんだな? 意識して舞草の柄を持った手から魔力を放出すると、刀身に一瞬龍が浮き出て手にかかる重量が無くなった。 ひょいと持ち上げてみると、木刀くらいの重さに感じる。 「魔力をマテリアを介さずに扱えるのは今のところセフィロスとお前だけだ。つまりこの系列の武器を扱えるのもお前ら二人だけということになる。ちなみにマテリアは柄にこのバングルをつければいくらでも装着できる。」 ぶんと振ってみた。すごく使いやすい。手に吸い付くみたいだ。馴染んだら呼べば飛んで来そうだな。 本当に、なんて親切なんだろう。わざわざ最高の武器をくれるなんて。 ククッと笑うと怪訝な顔をされた。 「どうした?そんなに嬉しかったのか?」 初めてにっこりと笑ってやった。 「すっごく嬉しいよ。ありがとう。」 相手が眼を見開いて口を開かないうちに舞草の鞘を一閃させた。首を軽く打って気絶させる。 手近にあった縄で後ろ手に手首を縛った。足も縛る。まだ警備員には気付かれてない。まぁ気付かれても殺すだけなんだけど。 このオヤジを殺さないのは情が湧いたからだろうか。優しくしてくれたし。 ミッドガルから救援が来るまでには生きてるでしょ。口は縛ってないし。 包みに入っていた剣帯に鞘を取り付けて身体に装着すると、腰の後ろで斜めに固定された。 ほんとに俺用だな。まったく邪魔に感じない。 今まで俺がここで見た人間は警備員が8人に研究員が2人。えらく少人数だが、たぶん秘密裏の研究なんだろう。 そのまま部屋を出た。部屋の前にいた二人の警備員の首を掴んで部屋の中に引きずり込むと、舞草の一閃で二人の首を掻き切った。 うん、情を感じてない人間なら殺すのにあんまり何も感じないみたいだ。これは俺の性質かな。それともジェノバの影響かな。 次の部屋に行こうとしてふと思いつく。警備員の死体の一つからサングラスを取って自分にかけた。 魔晄の眼は目立ちすぎる。まだ世に知られてないとはいっても、隠すに越したことは無い。 隣の部屋で休憩していた4人の警備員も殺した。銃を持っていたけど、そんなの俺には障害にならない。その際、箪笥にあった服を頂戴する。だぼだぼだけど、患者着よりはマシだ。 一見ただの古屋敷に見える家の廊下に出た。 残り2人の警備員はいつも玄関の横に立ってる。 俺が近づいていくと驚いたように顔を見合わせて、警棒も銃も持たずに近づいてきた。 確かに俺の見た目は15の細っこい子供だし、研究の内容も知らされて無いなら俺の力も知らないだろうけど、大きな刀を持ってる人間に無防備に近づくのは良くないと思うよ。 「どうしてここにいるんだ?早く戻りなさ」 あ。言ってる途中に殺しちゃった。ごめんなさい。 「ひっ……!」 「すいません。若い研究員の方がどこへ行ったか知りませんか?」 残る一人の首に舞草を突きつけて尋ねた。 「あっ……う…そ、外に……」 「外に?何のためですか?」 「か、買い物だといっていたが……」 「そうですか、ありがとうございました。」 そのまま刀身を男の首に差し込んで息の根を止めた。 あとはあの人が戻ってくるのを待つだけだ。 そして数分後、戻ってきた最後の一人の首に刀を突きつけた。 「……これはどういうことかな。」 「今まで黙っていてすみませんでした。ほんとはずっと意識はあったんですよ。」 「逃げる機会を窺っていたということかい?」 「というより身体が動くようになるのを待っていた、というのが正しいです。」 「みんな、殺してしまったの?」 「警備員の人たちは全員。でもあのオヤジは生きてますよ。」 「………君にはまだ勉強は教えてないはずなんだけど。15年間眠っていた君が、なぜそんなに流暢に話せるんだい?」 「さっきから質問ばかりですね。」 「研究者だからね。好奇心が強いのさ。」 それだけじゃないだろう。少しでもたくさんの情報を俺から得ようとしてる。 この人じゃ俺を止められないから。 まぁ、情報とも言えない情報だし、いっか。 「ポットの中にいるときは、夢のようなものを見ていました。すごくリアルで、だからこちらが夢なんだと、最初思っていました。」 そう、眼が覚めたら戻ってるのを期待した。 「でも、検査のときもモンスターと戦ったときも、痛みを感じた。これが現実なんだと知ってしまった。なまじ、ジェノバについての知識があるだけにちょっとキましたね。」 「ちょ、ちょっと待って!君は夢の中で知らないはずの知識を身につけたのかい!?」 「……普通に、学校に通ってましたよ。ジェノバや古代種については個人的に調べて得た知識です。」 彼は驚きすぎて口が開きっぱなしになっている。 「そろそろ行きますね。今までお世話になりました。できたらもう、会うようなことにはなりたくありません。」 するりと横を通り抜けようとしたとき、彼は俺の腕を掴んだ。 「セラフくん、君、そんな格好で行くつもりかい?それじゃあ目立って逃走どころではないよ。君の服を買ってきたんだ。こちらを着なさい。」 あっけにとられて、思わず相手の顔を凝視してしまった。 これから逃げますってサンプルに服を与えてどうする。 「いや、実は僕の身内にリーブって人がいてねぇ。リーブ=トゥエスティ。神羅の都市開発部門の統括なんだけど。」 知ってます。 「その人、目立たないんだけどすっごくいい人でねぇ。彼に君のこと話したら逃がしてあげてくれないかって。だから一緒に逃げて君の世話をするつもりだったんだけど、よかったよ。君が自主的に逃げてくれて。逃げ回るの不安だったんだよね。ああ刀は黒造りなんだね。これなら服とも合う。」 彼が買ってきたのは細身のブラックジーンズに軍靴のようにしっかりした造りのブーツ。灰色のタートルセーターに茶色のファーがついたブラックジャケット。指なしの皮手袋。金の龍を意匠したバックルベルト。 それらと目の前の男を見比べながらどうしようかと思った。 「それと食糧とポーションとエーテルとかも買ってきたよ。あと初級だけどマテリアも。雷と回復を。」 と旅用のポーチを差し出された。 「……俺、警備員殺したんだけど。」 「仕方ないさ。僕だって君に頼んで殺してもらってから逃げるつもりだったし。」 あははと笑う男は少しどころか結構食えない奴だと分かったけど、ちょっと信用してみようかと思った。 男を気にしながら急いで服を着替える。 「うん、サイズも合ってるみたいだね。それじゃあ僕を縛ってから逃げてね。あっ、これお金だよ。」 とりあえず無言で男を縛った。 そこで気付いた。この男は原作には登場してないけど、名前を知らない。まぁ俺がいる時点でゲームの内容とは違うんだけど。 「ねぇ、あんた名前は?」 「あ。やっと敬語やめてくれたね。自分はドネットといいます。君の名前は?」 「知ってるでしょ?」 「違うよ。宝条博士にもらったのではなくて、15年間君が呼ばれてた名前は?」 頭がいい男だ。ついさっき話しただけでもうそんなことを思いつくなんて。 「………。=。」 「ウータイ風の名前だね。気をつけてねくん。あそこは神羅とは仲が悪い。」 「知ってます。色々とありがとうございました。」 「出来るだけ神羅は避けたほうが良い。たとえ弟に会いたいと思ったとしても。」 ドネットはそれまでのニコニコ顔を消して忠告した。 「君が逃げたと分かったら宝条博士は君を追い求めるだろう。そしておそらくセフィロスくんさえ駒にして。」 セフィロスに会う。これはずっと考えていたことだ。ゲームでは彼は自分という個体の孤独に負けた。研究で生み出された、人間でない生き物だと知ってしまって、ジェノバの意思に負けてしまった。 でも、今は俺という存在がいる。全部とは言えないけど、ほとんど同じ立場の俺が。 ならば彼が狂うのを止められるかもしれない。 「俺はセフィロスに会うよ。だって、彼は家族だ。ジェノバという忌まわしいもので繋がれているとしても、たった2人の兄弟だ。彼が俺を兄だと知らなくてもいい。あいつのそばにいてやりたい。」 自分に言い聞かせるようにつぶやく俺を、ドネットは静かに見つめて、ややして息を吐き出した。 「おそらく、あと5年前後で彼は表舞台に出始めるでしょう。そしてソルジャー部隊というものが結成される予定です。」 「ジェノバを埋め込んで、魔晄を浴びせられた戦士ですね?」 「…そうです。君とセフィロスくんは生まれながらのソルジャーとして、神羅の狗になる予定だった。でも君は逃げ出した。せっかく得られた自由をまた振るのかい?」 「俺は、別にソルジャーとして神羅にいるつもりはありませんよ。」 しっかりと眼を合わせて宣言した。 「あいつのそばにいられるなら、どんな形でもいい。」 魔晄の瞳がギラギラと輝く。の気迫に髪がざわりと浮き上がった。 ドネットは動けなかった。眼をそらすことすらできない。冷たい表情なのに目線は焦げるように熱く、美しいのに、いや美しいからこそ恐ろしい。 ―――――――王を冠するもの。 まさしく、王者の気迫だった。 「……博士のネーミングは、事のほか当たっていたようですね。」 が去って、玄関に残されたドネットは一人ぽつりと呟いた。 「さてこれからどうするか。」 俺は今、広い草原の真ん中に立っている。さわやかな風が柔らかく頬をくすぐる。 「あと五年は逃げ隠れしないとなぁ……まずはどこかで目撃させて、それから本格的に身を隠すか。」 目立つところで発見させて、そこに気を取られている隙に田舎に逃げよう。 「まずはゴンガガにでも行こうかな。ザックスに会ってみたい……たぶん、今5歳くらいか。ヴィンセントはもう神羅屋敷の中だね。会えそうなのは……ニブルヘイムのクラウドとティファ、ミッドガルのエアリス、どこか知らないけどレノ、ルード、シド、コスモキャニオンのナナキ、リーブ……ユフィはまだ産まれてないし、パレットには興味ないし。」 どうせならこの世界を楽しまないと。 これは推測だけど、もしかしたら星が俺をここに連れてきたのかもしれない。 世界はいつだって自然なほうを望むんだ。世界にとって都合のいい選択をする。 セフィロスを排除するより、俺に救わせることにしたんだ。 俺の都合は関係なしに。 それに満腔の怒りと、絶対の感謝を。 可愛い可愛い弟を助けられることへの。 |