平日の昼間は学校で、夜は仕事。

休日もほとんどが任務に駆り出されてる。





やっぱりほら、女の対吸血鬼の戦闘員は私だけですから。



見た目は17の女の子だから油断させやすいですし、潜入捜査とかに便利ですし。
内部事情を探る必要があるとかで、困ってたから自分から志願したのですが。







アーサーさんには泣いて止められるし、ウォルター君には危険だからやめろって言われて。


でも私、アーカードと並べるくらいには強いんですよ?
それを言ったら「命の危険だけじゃなくって……」って脱力されちゃったけど。



の貞操が……とかブツブツつぶやいてたけど、私みたいな平々凡々な女を襲うのがいるとは思えませんし。


アーカードも反対したけど、あとで私の家でお茶に付き合うことを条件に許してくれた。

いつもみんなでお茶してるんですけどねぇ。2人でってところをやけに強調されましたが。



説得、大変でした………。


ウォルター君はワイヤーで縛ろうとするし、アーサーさんはヘルシング家の秘術とやらで封印しようとするし。
アーカードにいたっては拘束制御術式(クロムウェル)を三から一まで開放するし。




ちょっとだけ、殺す気なのかなぁ……って思っちゃいました。

心配してくれてるからだって分かるから怒りは湧いてきませんし(呆れはしたけど)、気をつけて行こうとは思うのです。








潜入するとこ自体はちゃちい組織なんですが、バックにでかい影が見え隠れするって言ってましたし。


でもヘルシングと敵対するような組織って…………。

















































「ありましたねーそういえば。」


現在の状況はすこぶる笑えない。ほんとに笑えない。




組織のメンバーに扮して潜り込んで、見回りの隙をついて資料保管室に入り込んだまでは良かったんです。


目的のものを見つけて、隠し持ってた無線機でアーサーさんに報告して。

もう用は無いからヘルシングが踏み込んでくるのに合わせて脱出する予定でした。






でもね、重大なことを忘れてたんです。



ヘルシングと対立してくるような根性のある組織、私はミレニアムとヴァチカンのイスカリオテ機関くらいしか思いつきません。




どっちも同じくらい関わり合いにはなりたくないところです。

個人的にはそこそこ仲良しなのですが。



ミレニアムだったら何がきっかけで解剖・研究されるか分からないし、ヴァチカンに出会えば問答無用で(アーカードと)戦闘に突入してしまうからだ。
(なぜか自身が狙われることはほとんどない。)





アンデルセンと大尉と准尉には会いたいけれど、今はそれどころじゃありませんし。














































現実逃避をしていた思考を戻した。




そう、バックにいる組織とはミレニアムだった。


物資調達用の末端組織だから、そうそう幹部は来ないだろうと高をくくっていたのが災いした。


人目を避けて行動してたから知らなかったけど、思いがけないVIPが来ていた。



―――――大尉と博士(ドク)だ。




今、目の前で手をわきわきさせている博士(ドク)と、相変わらず無表情な大尉。

………………どういう組み合わせ?





「あーー………お久しぶりです、博士に大尉。なんで、ミレニアムの方々がここにいらっしゃるんですか?」

「今日は実験に使うための素体の調達に来たのですよ、ミス・。大尉には護衛で来ていただいたのです。」



にこやかな博士。大尉もどことなく嬉しそうに見える。

なるほど、物資調達とはそういう意味でもあったのね……。



さん、ミレニアムに来ませんか?少佐殿もお喜びになられるでしょうし、ちょっとお茶を飲むだけでもどうでしょう。」



手を差し伸べてくる博士。

ミレニアムのみんなとお茶を飲みたいのも本音だが、今は仕事中だ。



「今は仕事中ですので………私とあなた方は敵同士、です。」



再三に渡って勧誘されてはいるものの、ミレニアムを、引いてはその実態を知っている自分としてはミレニアムに入ることはどうにもはばかられる。

意外といい人が多いんですけどね……。


それにたぶん、漫画ではあと数年もしないうちにウォルター君とアーカードに潰されるはずですし。


しかし彼らがそんなことを知るはずもなく。

博士(ドク)は薄い口唇を歪めてにやりと笑った(大尉はもちろん、博士も意外とかっこよかった)。



「そうですか……残念です。シュレディンガーもあなたに会いたがっていましたのに…………。」

「うぅっ……!!」



は胸に手を当てて呻いた。
思わぬ攻撃に身体がよろめく。



手ごたえありっ!と内心でガッツポーズをとる博士。あくまで表情には愁いを浮かべて。



「哀しむでしょうねぇ彼は。 泣いてしまうかもしれませんねぇ……あぁかわいそうに…。まだ子供ですからねぇ…………。」

「シュ……シュレディンガー君が……」



連続して放たれる言葉に、ぐらりとココロが傾いた。仕事モードの赤い瞳が左右に揺れる。






そう。

はシュレディンガーに弱い。


元来、子供好きで動物好きな彼女は彼が可愛くてたまらないのだ。


あの耳、短パン、マイナーなところでちょっととがった(ように見える)八重歯までもかわいらしく思えてしまう。


吸血鬼ならば誰でも八重歯はとがっているのだが、子供の外見というフィルターがかかっているためにそんな理屈は聞こえていない。




そんな少年が、「姉ぇっ!」と甘えてくるのだからどうしようもない。



(計算され尽された)上目遣いに、(限定の)ふんわりした微笑み。
キュッとばかりに抱きついてくるその愛らしさ。





もちろん全ては下心あふれる、計算された行動なのだが。









可愛くて優しくて、頭も良いけどちょっと単純で、強い

敵の組織であるにも関わらず、ミレニアムでもイスカリオテでも彼女に惹かれている男は数知れない。


そんなを狙うもの同士としてミレニアム内でも犬猿の仲として知られる博士とシュレディンガー准尉。
を手に入れるためなら恋敵でも利用する博士の説得(?)にオトサレるのも時間の問題だ。



「貴女の好きなアインフュールの一日限定30枚の焼き菓子も用意していますよ。」

「えっ………」

「ティードール社のレディグレイも、上物の葉を準備してあります。確かお好きでしたよね?」

「あっ……う、………で、でもっ!今、仕事中でっ」

「ちょっと趣向を変えて、玉露で栗羊羹なども。」







「……………………………………イキマス。」











………撃沈した。


仕事中だけど仕方ない! もう報告しましたしっ!!

後のことはきっとアーカードたちがなんとかしてくれますよね!

仕事はいつでも出来るけど、ティードールのレディグレイなんてめったに飲めるものじゃありませんし!





心なし、うきうきとしながら大尉の差し出す手を取ろうとしたそのとき。







「仕事をサボって何をしようとしている、。」






冷たく、低い声が響き渡った。


カキンッと固まったは、壊れたロボットよろしく、ギギギギッと首を回して背後の壁を見詰める。






「ア………アーカード、………………早かったです、ね……。」







壁から溶け出すように闇が漏れ出し、凝って長身の男の形を取った。

大尉は既に博士を庇うように前に立ち、ライフルをアーカードに向けている。




「そうとも。お前が心配だったからこそ、私は疾風のごとくにフリークスどもを殲滅してきたぞ。」




芝居がかった大仰な仕草で手を広げながら、アーカードは言った。

だがその穏やかにも聞こえる声が逆に不吉に感じられるほどに、その口元は禍々しく歪められ、血の色を濃くした瞳はミレニアムの幹部らを睥睨している。



「そして最後に残ったそこの二匹を殺せば、今日の任務は完了だ。」



いつの間に構えたのか、大口径の銃がを飛び越えてその後ろにいる大尉と博士の頭に照準を付けていた。



それに慌てたのはと博士だ。




「ちょ、ちょっと待って下さいアーカード!私は彼らにお茶会に誘われただけなんですっ!!」

「そ、そうだとも!友人とお茶をしてはいけないのか!?」

「わざわざ敵の巣窟まで行かずとも、私とお前の家でお茶をする約束だっただろうが。」

「えっ?あ、そういえば………」

「………忘れていたのか?」






向けられた不機嫌な視線に必死になってかぶりを振った。


まさか限定菓子と高級茶葉と和菓子に釣られて、ちょっと頭から飛んでましたなんて正直に口に出したらどんなことをされるか分からない。

もしかしたらアーサーさんとウォルター君に報告されて、今度こそワイヤーで縛られたり秘術とやらで封印されたり――――――……絶対そうなる。







「わっ忘れるわけないでしょう?仕事前に約束しましたよねっ!?」

「ほう、それはそれは。では今度の茶会にはアインフュ―ルの限定焼き菓子とティードール社の上レディグレイを準備しておこうか。好きだろう?」




(いぃやあああぁぁぁぁっっ!!ばれてる!!??)







もはやぐったりとしたを楽しそうに胸に抱きかかえると、不死王(ノスフェラトゥ)の男は残る二人の男に目を向けた。

大尉は無表情ながらどうにかを手に入れようと隙を窺がい、博士はおびえながらも必死に画策しているようだ。




を連れ帰らねばならんから今日はもういい。お前ら『 人でなし共 』の親玉殿に伝えておけ。」


酷く上機嫌に言葉を続ける。


「こいつはヘルシングのゴミ処理係。お前ら怪物(ミディアン)をを狩る怪物(ミディアン)。人でない人。」













「私と同じ、 化物だ。手を出すな、 “ 最後の大隊(LAZTE BATTALION) ”諸君。」















































を抱えたまま溶けるように消えたアーカードに向かってか、博士はつぶやいた。



「……逃げられたのか、逃がされたのか。今日のところは勧誘失敗ですね。」



勧誘だったのかよ、と心の中で突っ込む大尉。



「それにしても………あのアーカードが同等と認める化物、それでいて人間。確かに彼女はアーカードや我々に比べても異質ですね。」



お前のほうがイカレてるぞ、と内心で思う大尉。






どうやらを持っていかれたのが相当気に入らなかったらしい。

ライフルを戻すふりを装って博士の脛にしたたかに打ちつけた。

完璧な八つ当たりだ。ギャッと悲鳴を上げて床を転げまわる博士を視界から締め出し、天井を仰いで無口な大尉は物憂げに息を吐いた。





そして新たに決意を固める。

あの赤男、ひいてはヘルシングから必ずを奪い、手に入れると。
















おまけ:


その後、博士は大尉への認識を少し改め、大尉も被っていた猫を時々はがすようになったとか。

博士は少佐と大尉と准尉と多くの兵士たちから陰湿なハラスメントを受けて、一ヶ月ほど研究室から出てこなかった。



実験用につれてこられた即席(インスタント)の吸血鬼たちは、その間、口に出来ないほどおぞましい実験の犠牲になってしまったらしい。
























あとがき:


あぁ…………。
はじめてヘルシングの番外編書いてみました。というか、番外編ってこんな感じでいいんでしょうか……。
しかも結局、誰オチなんでしょう。私的には、アーカードオチの逆ハーを狙ったんですが……。VSですね、これ。
ツバサさんのリクを消化するつもりで書いたんですが、どうにもうまくいきませんでした。この後日編で、改めてがんばろうかと…。
ツバサさんごめんなさい!こんなものでよろしければぜひお持ち帰りを……。



6/7:加筆修正