熱い視線に晒されながら、はさりげなく気配を探りながらゆったり進んだ。
やがて、この街で一番賑やかな通りに着いた。




















「ちょっと早く来過ぎましたか…」



今の時刻は午前11時。ジークはまだ来ていないだろう。



「この通りに来るの初めてですし…時間まで見てまわりますか。」



そしては通りの中央にある広場から逆の方向に見始めた。


ジークフリートと合流してから一緒に反対側を見てまわろうと思ったのだが、この選択は間違いだった。

なぜなら既にジークフリートは中央広場に来ていたのだ。




そしてをストーカー(尾行)している三人で、誰が最初に声をかけるかで静かな闘いが始まっていた。



















あーあれ可愛いな。


ウィンドウショッピング中に目に留まったものがあった。


トップに小さな黒いカメオの付いたネックレス。それに気を取られていたは前方から来る人影に気付くことができなかった。



「きゃっ…!」



不意に衝撃を受けて体が後ろに傾ぐ。

人間の身体では受身を取ることも出来ず、訪れるだろう痛みに思わず目を瞑った。



縋るものを求めて咄嗟に空中に伸ばした手を掴まれて、ぐいっと引き寄せられる。

気付いた時には目の前に真っ白と赤のコントラストが広がっており、背の高い人の胸に抱きこまれている状況だった。



「大丈夫か」



低い声がすぐ耳元で囁かれた。

それが少しくすぐったくて無意識に身体を捩ると、密着していた状態から少し身体を離されて顔を覗き込まれ、また「大丈夫か」と聞かれた。



そこで初めて男の顔が見えた。


遮光眼鏡を着けていて目を見ることは出来なかったが、それでも端正な顔立ちだと分かる。

なにより、恐ろしいくらいの存在感がある男だった。




2m近い長身に自分と同じ黒く長い髪の毛。と同じ、石膏よりも血の気の無い肌。
醸し出している雰囲気はなどより遥かに老成していて、なのに生命力に溢れている。そして、自分になによりも近いこの気配。



(この人、同族っ……!!)



この男は吸血鬼だ。そして自分よりも遥かに長く生きている。




間違いなく私を監視していた人物だと、直感で悟った。




思わず身を硬くして目の前にある男の顔を睨んだ。

男は苦笑して言った。



「そんなに猫のように警戒するな。何もせんよ。」

「……助けてくれてありがとうございます。もう大丈夫なので離してください。」



男は残念そうな顔をするとゆっくりと拘束を解いた。



こいつ言われるまで絶対離す気無かったな……!


男と距離を取って対峙する。


「その様子だと、俺が何か分かっているようだな。」


「……何の事ですか?あなた、私を監視していた方ですよね。いったい何でそのようなことを?」






「何故俺が監視していたと分かる?」


















…………しまったっっ!!!!!

しらばっくれておけば………!!!




頭を抱えて苦悩するを見て男は口元を緩めた。



「俺はアーカードと呼ばれている。お前の名は?」


「……どうせ知っているのでしょう。」


「お前の口から聞きたいのさ。」




楽しそうに唇を歪めるアーカードを見遣って、は溜息混じりに名乗った。




「……です、=H=。それで、ミスター・アーカード。あなたは私を殺すのですか?」





これまで同族に狙われたことが無かったわけではない。吸血鬼の中には人間に雇われて同胞を狩る者もいた。
アーカードもアーサーさんに雇われている類かもしれない。……アーサーさんがそんなことするとは思いたくないが。




「貴方は、アーサーさんの仲間……ですよね?」


「仲間というよりは下僕だな。を殺すかどうかはアーサーが決めることだ。」







……なんか今さらっとすごい言葉が出ました!下僕ってこっちじゃ普通に使われるんですかっ?!




「お前と話がしたいと言っていた。お前は不可解な点が多すぎる。」




その言葉に、そっと琥珀の瞳を伏せた。




「……今すぐは無理です。人と約束してるので。今日か明日の夜に、私の家に来てくれますか?決まったら電話していただければ。」




電話番号を紙に書いて差し出すと、その手を取られて引き寄せられた。




耳元で囁かれる。





「安心しろ。あいつも俺も、お前を気に入っている。死ぬようなことにはならんさ。ただ話を聞くだけだ。」




胸に頭を押し付けられてぽんぽんと後頭部を叩かれた。




「はい………ありがと、ございます。…アーカードって意外と優しいですね。」


「意外は余計だ。……まあ、おそらくお前にだけだろうがな。言っただろう?を気に入った、と。」



突然アーカードは の顔を両手で包んで掠めるようにキスをした。







忘れているかもしれないが二人がいる場所は賑やかなショッピング街。しかも二人とも目を引く美男美女。

見るなというほうが無理があった。



いつのまにか周りにいた野次馬たちは、頬を染めて固まっている。




は顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を上げて、3mは飛び退った。そして大きな目に涙を溜めて、キッとアーカードを見つめる。




その様子にアーカードは声を立てて笑った。



「本当に猫のようだな。ご馳走様だ、。いつかお前からしてもらおう。」




そういって去っていく長身を、は呆然と見送るしかなかった。





























「……やられました。」




ファーストキスだったのに。













あとがき:

長々とすみません…。次でアーサーとウォルターがこのやり取りの間何してたか書こうと思っています。アーカードは主人公にはとっても優しいです。でもいつかモノにするつもりです。