それなのに。
だんだんムカムカしてきました。
なんでこの男はいつまでも笑ってるんですか!
「ねぇ……そろそろ笑うの止めませんか?」
言外にいい加減にしろとにっこりと顔だけは朗らかに、声音は少し低く、そして目は鋭く細めて。
その視線をまともにぶつけられたジークフリートはカキンと固まって、慌てて跳び起きた。
はじめて見るの怒りのすさまじさに、顔は蒼白を通り越して真っ白に引き攣っている。
「いいいいやっ、あの……ごっごめんなさい!」
声を振り絞って謝るジークフリートの情けない姿に、怒りは消えて苦笑が浮かんできた。
「いいですよ別に。もう怒ってませんから。それより、映画いつ行くのですか?」
連れてってくれるんでしょうと言うと、ジークの顔が嬉しそうに緩んだ。
は(そんなに映画が見たかったのですね)、と真相とは120度ほどずれたことを考えていたのだが。
この微妙な二人のすれ違いを指摘してくれるものは、幸か不幸かこの場にはいなかった。
そしてその時、とジークフリートは気付いていなかったが、拳を激しく震わせながら微笑んでいる青年と、厳めしい銃を握り牙を鳴らしている男と、目を吊り上げ今にもワイヤーを飛ばしそうな少年が彼等のやり取りを茂みの中から見ていたのだった。
「……おいどうする。あの男、殺しておくか?」
「…いや、そうしたいのは山々だけれど…それしたらくんが悲しむだろうしねぇ。それにその映画に乗じて彼女の正体を探ってみようかと思うんだけど。」
「はあっ!?映画なんかでどうやって調べるんですか?」
アーカードに応えたアーサーの発言に執事姿のウォルターは驚いた。
というかそもそもアーサーはこの場にいるはずが無いのだ。
の素性調査は自分とアーカードに一任されているのだから。
それにも関わらず当たり前のようにいるのは、しかも捜査方法まで指示してくるのはちょっとどうなのか。
要は「なぜのことに限って手を出してくるのか」という、なんともいえない嫉妬なのだけれど。
ウォルター自身の自覚はないにせよ、声にその気持ちが混ざったのだろうか。
「フフ…ウォルター、僕は彼女に関して妥協するつもりはないよ?相手が君達だろうとね……ククッ!まあ君たちでは相手にならないだろうけど…………」
……………黒っっ!!
怖っっ!!
「アーサー様ってこんなキャラだったっけ……」
それなりに敬愛している上司のあまりの壊れっぷりに地に崩れ落ちた従僕の呟きは、を覗いては含み笑いを零している主に気付かれることはなかった。幸いなことに。
アーカードはただ呆れた目で傍観していた。
(ヒューマンの思考は不可解だな。)
手に入れたいならば手に入れればいい。
契りたいのならばどうやってでも犯せばよいではないか。
それが世界の、自然の摂理だ。
吸血鬼の本分だ。
……しかし俺は今何をしている?
何故木の影などに隠れて、すぐそこにいる女をただ見ているのだ?
……不可解だ。
あの女の名は……確か=。
あの女の泣き顔が頭から離れない。流れる黒髪に、自分との共通点を見つけて少し嬉しく感じる自分がいることに気付く。
幾星層を生きて、ここまで俺の思考を乱す女は他になかった。
……おそらくこの先も見出だせまい。
、この私の心にここまで深く入り込めたことに敬意を表し、不死王の、いや、アーカードの名にかけて全力で相手することを約束しよう。
……ククッ、必ずお前を手に入れて見せるぞ…………!
ゾクゥッッ!!!
「……なんか、今とてつもない寒気がっ………」
主従と吸血鬼がそれぞれ思考を暴走させながらを覗き見ているとき、は得体の知れない悪寒を感じていたのだった。