はその街にあるグランドメイ高校に転入した。





役所の人間に暗示をかけて、偽装の戸籍を登録する。

このくらいならば昼間でも出来るのだ。





夜中に壁をすりぬけて銀行に侵入し、口座に数億ドルを個人名義で書き、正規の手続きに見せるために偽の登録履歴を作っておいた。






その次の日の朝、作り立ての身分証明を持って高校を訪れ転入手続きをした。
入学テストはその日のうちに全教科満点で合格した。





両親共に人並みはずれて(むしろ片方は人間でない)頭が良かったため、娘の能力が化け物並みに高いことは無論である。



もちろん、人間の前では人並みに合わせるようにしているけれど。



















「ようやく人心地付きましたぁ…」



いや、ヒトではないのですが。













今、は町外れの、最初にいた森に近い一軒家に住んでいる。




アイビーのはびこったレンガ調の古びた洋館だが、その雰囲気と森に近いことが気に入った。
庭も広く噴水まである。今は冬なので動かしていないが、夏になったら付けてみようかと考えている。






なぜこんなにいい物件が今まで売れなかったのかというと、この屋敷で昔殺人が起こったらしい。






しかも死体の体に血がほとんど残っていなかったことから、森に住む吸血鬼の仕業だという噂が流れ、迷信深いイギリスの人間たちにはこの屋敷を購入する勇気がなかった、というわけである。



もちろんれっきとした吸血鬼であるに、そのような噂を怖がる理由は皆無だった。





不動産でこの物件を見たときに迷わずここにした。

人から深く干渉されず、夜の自分の秘密を隠すためには格好の位置にあり、人が寄り付くことを厭うような噂まであった。






これ以上のものは無いとその場で現金買いしてしまったのだ。










必要な家具も全てそろえ、今はリビングで優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる。
といってももう夜中といえる時間だが。


カップを片手にこれからの生活に想いを馳せる。



「明日から学校ですか。よし!今日は早く寝てしまいましょう!あ、でもその前に…」



いきなり立ち上がったかと思うと、は家の窓のカーテンを全て閉め始めた。






カーテンは厚い黒の布地に銀糸でくもの巣のような刺繍がされたものだ。
洋館の雰囲気に合わせて買ったものだが、このカーテンは紫外線を100パーセント遮断するものである。



何か日中に吸血鬼に力を使う事態に備えてのものだが、少し力を使ってカーテンが閉まっているときに家に入ってくるものがあったらすぐに分かるようにしておいた。

もとの世界でもハンターの襲撃とか結構あったために考え付いたものである。



「お休みなさい」



明日からの新しく始まる学校生活に思いを馳せながら、はゆっくりと目を閉じた。
蜜色の輝きが闇に消える。












どうか、もう記憶を消さずに済みますように。


もう二度と、忘れられたくありません。