ちょっと恥ずかしそうに笑いながら礼を述べると別れた。












「さて……どう思う?」



さよならを言ったの後姿が見えなくなったころ、アーサーは背後に向かって肩越しに質問した。



彼の後ろにはいつの間にか二つの人影が現れている。大きく、黒々とした影が低い声で答えた。



「分からぬ。だがあの戦いぶりを見る限り人間ではないだろうな。」



間を置かず、まだ少年期を抜け切れていないボーイソプラノの声が発された。



「でもあの子、アーサー様を襲うそぶりもありませんでしたよね。俺たちに気付いてもなかったのに。」



声の主は年若い少年だった。猫っ毛の短い黒髪に猫のように鋭く細められた黒い目。明らかに未成年であるのに、黒を基調とした執事のような格好をして、黒い皮手袋を嵌めている。




「あの子のミドルネームも気になるな。ヘルシングか……どう考えても吸血鬼関係だとしか思えない。」


「罠かも知れんぞ。女の色香で油断させたところにかみつかれるかもな。アーサー…、お前、まんざらでもなかっただろう?」




ククッと意地の悪い笑声をあげながらからかう男の風貌は奇矯を極めた。

2メートルはある長身に漆黒のスーツを身に纏い、黒い革のブーツ。その上から足首までもある真っ赤なコートを羽織り、赤いスカーフを締めている。
長い黒髪につばの広い赤帽子の隙間からは闇のような遮光眼鏡が覗いていた。







どう贔屓目に見ても、真っ当な商売の人間には見えなかった。




「おいおいアーカード。くんは確かに魅力的だがそんなものには引っかからないさ。
ああでも本当に可愛かったな…。うらやましいだろう?あの子の手はとても柔らかくて暖かかった。しっかりと握ってくれたぞ?」


「アーサー様……発言がオヤジですよ。キモイです。」




心なしか声が低い。


手には血の染み付いたワイヤーまで構えている。その血はとアーサーが出会う直前まで相手をしていたグ―ルと吸血鬼のものだ。




「ほんとのことを言ってるだけさウォルター……、というか、なんで怒ってるんだい?君も手を握りたかったとか?」


「な!そっそんなわけないでしょう!あんな怪しい女の手なんか……確かにちょっと可愛かったですけど!けど!!」




ウォルターは顔を真っ赤にして叫んだ。これは惚れたなと年長二人組みは確信した。年長組とはいっても、その二人の年の差は10や20では足りないのだが。





「照れるなウォルター」


「照れてません!!」


「では、お前はあいつをなんとも思っていないと考えてよいのだな?」





確認するようなアーカードの言葉に、ウォルターは不安を覚えた。なんとなくアーカードの機嫌がいい。

普段はあまり感情を出さないのに、今は目に見えて楽しそうだ。




「…それはどういう意味だい?」



アーサーも何かを感じたらしく、目を剣呑に細めてアーカードを見据えた。



「気に入った。あの娘は俺がもらう。そのための意思確認だ。」



これに関しては敵は少ないほうがいいからなと言うアーカードに、ウォルターの強い反発が返される。




「何考えてんだよアーカード!あんな危ない女に手ぇ出す気か!?」


「血を吸ってしまえば問題あるまい。あの女がヴァンピールならば、それこそ我が伴侶として問題なかろう?」


「待ちなさいアーカード。私だって彼女を気に入ってるんだよ?お前にくんは渡さんよ」


「俺だって!」



咄嗟に口に出してしまった言葉に、ウォルターは口を手で覆い、顔を赤くして視線を宙にさ迷わせる。



「やっぱり君も気になってたんだねぇ。うんうんやっぱり健全な男なら惚れないほうがおかしいからね、可愛さといい中身といい。」


「い、いや俺は……それにアーカードはどう考えても健全じゃない気が、」


「小僧が加わったところでどうでもよい。こんな気分は久々だ。」




ウォルターの言葉をさえぎってアーカードはひどく上機嫌に笑う。




「(誤魔化したなこいつ)そろそろ帰ろうか。徹夜のおかげで今にも倒れそうだ…まあ有意義であったけれどね。彼女についてもいろいろと調べなければならないし。ああもう一度会いたいなあ……。あ、言っておくけれど、抜け駆けはダメだからね?」






フフ…、と真っ黒な笑顔で朗らかに言うアーサーに、執事と下僕は賢明にも言い返さなかった。
































そして三つの影は、街角の闇へと身を沈めた。