長かった夜が明けて、朝日が木々の隙間から差し込んできた。目の色が紅から濃い琥珀に変わり、身体能力が人間並みになったのが分かる。
相手の顔を見上げて答えた。
「そうなのですか。ご心配をかけてしまったようで、すみません…。
とりあえずそろそろ帰ろうと思うのですが、アーサー様はどうなさるのですか?」
彼は少し息を詰めた。
の顔は半死人だけあって常人以上に白い。
それに驚いたのだろうとは単純に思ったが、アーサーは彼女の美しさに圧倒されたのだ。
普段は意識して気配を殺して生活しているのだが、今日ばかりは気が回らなかったらしい。
「君は本当に日本人なのかい?ジャパニーズは黒髪に黒目が民族的な特徴だったと思うのだが。」
「国籍は日本ですよ?フルネームは=ヘルシング=です。実は日本の血の方が少ないみたいなんですよね。」
「ヘルシング……?身内の方にヘルシングという方がいるのかね?」
「たぶんいたんだと思います。」
まさか純粋な吸血鬼ですとはいえない。
「それがどうかしましたか?」
やけに興味を持つなぁ。まさかハンターの類?
ヘルシングって有名だしなぁ。
そう考えれば私の母方の先祖も父さんもハンターなんだ。
吸血鬼の娘としては複雑だ。
「いや、ヘルシングなんて変わったミドルネームだと思ってね。…ところでくん、君は道は分かるのかね?先ほど迷ったと言っていたようだが…」
「明るくなれば大丈夫だと思います。」
暗くても問題ないですけどね。
「だがちゃんとは分からないのだろう?よし!私が街まで送ってあげよう。君のご家族も心配しているだろうしね。」
やけに積極的なお兄さんです。
…ふむ。また会うかもしれませんし、親がいないことにしたほうが後々動きやすいですよね。
「いえ、家族はいないんですよ。今どこにいるのかも分かりませんし。もしかしたら死んでるのかもしれません。自分のことで分かっているのは名前だけなんです。」
これはあんまり嘘じゃない。
父さんはもう死んでしまっている。
母さんは不死といわれている吸血鬼。もしもじゃなくとも死んでいる。
「そうか……すまない。」
はにっこり笑って言った。
アーサーさんは少し顔を赤くしている。風邪?寒いからなぁ。
「いいんですよ!慣れてますから。私、最近イギリスに来たばかりなんです。これから転入手続きを取って、こちらの高校に通うつもりです。私、日本とイギリスのクオーターなので、もしかしたら親に会えるかもとも思ってはいますが……」
苦く笑って見せた。
「そんなことより、早く森を出ませんか?ちょっと寒いですし、私も今日住むマンションを見つけるつもりなんです。お兄様、風邪を引いてしまいますよ?」
相手の手を引いて歩き出した。
なんだか少し慌ててるみたいです。ていうかびっくりしてる?
太陽浴びてるから、いま私の体温は人間並のはずなんですが。
「どうかしましたか?やっぱり具合が…?」
「い、いや…君の手が暖かいなと思ってね…」
なんでそんなことで驚いてるんでしょう。
まさか私、ホンキで吸血鬼だってバレテル?
「そうですか?私はアーサー様の手のほうが、暖かくて気持ちいいです。お父さんみたいで、安心します。」
ギュッとアーサーの手を握った。
アーサーの手は大きくて、の小さくて柔らかい手がすっぽりと納まってしまう。
まだ小さかった頃(つまり現在67歳で外見が17歳位なので、大体実年齢17あたりの頃)に繋いだ父さんの手を思い出してしまった。
知らず、声にも愁いが混じる。
まあ半吸血鬼だって分からないだろうし、今は人間の身体だし。
それよりも今はこの懐かしい暖かさ、もうないと思っていた感覚を味わっていたい、出来るかぎり長く。
(後で記憶消さなきゃいけないだろうなぁ)
その事が残念に思えてしまう。
自分の思いに没頭していたは、アーサーがあらぬ方向に目配せをしていたことに気付かなかった。